主人公と同じ仕事をしていた小山内さんが語る「電話相談員」のリアル

――小山内さんは報道ディレクターから社会福祉士へ、そして韓国語翻訳者になられました。どのような経緯で現在のお仕事をされることになったのでしょうか。

 20代でニュースやドキュメンタリーの現場、現在も放送している討論番組の担当を経験させていただいたのですが、政治家の取材などを日夜続けているうちに自分がこの仕事で何をしたいのかが見えなくなってしまい退職しました。大学の専攻が教育学だったので2年間通信教育を受け直し、社会福祉士の国家資格を取得。その後は日本のNPO女性団体に所属し、女性たちの相談を受けていました。

――つまりカン・ミンジュと同じ仕事を?

 そうなんです。偶然にも主人公と全く同じ仕事をしていました。当時流行っていたドラマ『冬のソナタ』に影響を受けて職場近くの韓国語学校にも並行して通学。所属している社会福祉士の関係団体に1か月の海外派遣制度があったので、それを利用して韓国の女性団体に研修に行きました。

 私が日本と韓国で社会福祉士として働いていたのはミンジュの時代よりも10年ほど後ですが、それでもこの物語に登場するような「DVを受けても男性との関係を“諦めきれない”女性」がまだ多くいました。当時の韓国のフェミニストは親類縁者から縁を切られるような時代だっただけに、被害者の男性に縋ってしまう思考をイチから叩き直すような厳しい指導をしていました。洋服もモノクロでスカートは絶対履かないなど、かなり禁欲的でもあった。

 彼女たちが強い正義感を持って活動するが故に社会との距離が離れていく様子、一方で女性団体に助けを求めるのに最終的には頼る男性を探してしまう女性たちに相談員たちが怒りを抱く様子を間近で見てきました。

 実は、面白いことにミンジュの相談員としての姿勢は社会福祉の教科書のように正しいんですよ。相手に根拠のない希望を与えず、相談員自身の経験からの助言はせずに現実的な助言のみをする。おそらく著者の梁貴子(ヤン・グイジャ)さんは現場を取材されたのだと思います。相談の事例もかなりリアルで、韓国の相談の現場がかなり詳細に再現されていることも本作のおもしろさだと思います。

次のページ これは絶望の先で「できることの限界」を知るための物語である