共感できない? でも目が離せない「破天荒なヒロイン」カン・ミンジュ
――主人公のカン・ミンジュは、「人気のイケメン俳優のせいで世の女性たちは男性の加害性に気づくことができない」と本気で信じ、拉致を実行します。この主人公を若者たちはどう見ているのでしょう?
韓国のYouTubeやSNSを見ていると、「この子、本当に嫌!」「困った子だなぁ」といった意見が多いですね。ミンジュに共感したり憧れている人はほとんどいません(笑)。ただ、極端に思想をこじらせてしまった彼女の破天荒すぎる言動を追ううちに「でも、この子どんな目に遭っちゃうの?」と気になってくる。ある種の「代理満足(注:自分が欲求を誰かが代わりに満たしてくれること)」を得て楽しんでいるんだと思います。
そして物語が進むにつれ、読者はミンジュが単なる変な子ではなく苦しんできた多くの女性のひとりで、苦しみをアウトプットする形が違っただけだったと気づくわけです。彼女のような破天荒なヒロインは現代の小説では珍しいのか、彼女に“行動する勇気”をもらう読者が多いのかもしれませんね。
――小山内さんご自身は、ミンジュの人物像をどのように捉えながら翻訳をしたのでしょうか。
彼女は聡明ゆえにさまざまなことを頭で考えて淡々と計画を実行していきますが、そこに感情の変化が予定されていないので、徐々に交錯し破綻していく。計画のスタート地点から全てが間違っているわけです。策に溺れるというのはまさにこういうことだなと。
とりわけ、彼女は努力して感情や思考を統制しようとしているように見えました。自分に呪文をかけるように。そういう人の発する言葉はきっと生々しい素の言葉じゃないんですよね。「頑張らなきゃ」ではなく「頑張らねばならぬのだ」と自分で自分に言い聞かせるような彼女の思考を文体で表すようにしました。そうすることで、彼女が体温のある言葉を発した時に、その生っぽさがより際立つのではないかと。
