1992年、韓国で一冊の小説が刊行された。とある女子大学院生の“反抗”を破天荒に描き出したその物語は、当時のメディアから猛烈なバッシングを浴びた。
それから30年あまり。韓国フェミニズム文学の話題作『82年生まれ、キム・ジヨン』を経て、いま韓国の20~30代の女性たちが熱い眼差しを注ぐのは、かつて社会から弾かれたこの小説、『願うのは私に禁じられたこと』(梁貴子著)だ。
なぜ現代の若い読者は、共感を超えた「困ったヒロイン」の暴走に惹かれ、そこに救いを見出すのか。
元NHK報道局ディレクターから社会福祉士へと転身した異色の経歴を持つ翻訳者・小山内園子さんにその背景を伺った。
●あらすじ
女性のための電話相談員を務める大学院生、カン・ミンジュ。DVや性暴力などの被害の声に日々耳を傾ける彼女には、ある計画があった。それは、人気男優ペク・スンハを拉致し、監禁すること。「これは男たちの加害への復讐なのだ」と信じる彼女は、ついにその計画を実行に移す。果たして、奇妙な監禁生活の果てに何が待ち受けているのか――。
30年前の小説が、なぜ今韓国の20~30代女性に再評価されているのか?
――本作は、女性団体で電話相談員として働く大学院生、カン・ミンジュが人気男性俳優ペク・スンハを拉致して監禁するという突飛な幕開けで始まります。拉致した理由は「男性に虐げられてきた女性たちによる復讐」。刊行された1992年当時にはどのような評価を受けたのでしょうか。
主要新聞のような大手メディアに掲載される評価は「非常に独善的」とか「ドン・キホーテのつもりか」「自分の金で生活していない、甘えた女学生の物語だ」といった酷評が多かったそうです。1990年代半ばの韓国は、軍事政権が終わり生活が豊かになりつつあった時代。しかしアジア通貨危機が起きたことで時代は引き続き揺らいでいた。希望と不安の狭間にあった時期ということもあり、若い女性が社会的地位のある男性に制裁を下すというストーリーは到底受け入れられなかったのでしょう。
ただ、当時論評を書いていた記者はほぼすべて男性。私も今回翻訳するにあたり市井の女性たちが当時どのような評価をしていたのか調べようとしたのですが、女性たちの意見を見つけることはできませんでした。
――しかし30年の時を経て、いま韓国の書店では本作がベストセラーの上位に常にランクインするほどの人気です。しかも刊行当時を知らない20~30代の女性たちが支持しているとか。
そうなんです。流行する決定的なきっかけがあったわけではなく、「これ面白いよ」と若者の間で口コミで広がっていきました。興味深いのは、フェミニズム文学最盛期のいまを生きる彼女たちが「30年前から(状況が)変わっていないんだ」という“再確認”をする流れがある点。30年前という時代性を全く感じさせず、現代を生きるわたしたちにも新鮮に届くストーリーの強さも相まって、人気が高まっているようです。
