今、韓国の若い世代の間で「テキスト・ヒップ(Text Hip)」と呼ばれる新しいムーブメントが起きている。デジタルデバイスではなく紙の書籍に回帰する動きだが、それは単なるSNS上の自己表現ではなく、自らの思想や価値観を表現する“スタイル”として若者に定着しつつあるそうだ。
テキスト・ヒップカルチャーの成熟の背景には、読者だけでなく、手元に置いておきたくなる美しい装丁やポケットサイズの気軽なシリーズを制作するなど、若い世代に書籍を身近に感じてもらうための出版社側の戦略も関係している。
デジタル全盛の時代に、韓国の若者はなぜあえてアナログな肌触りを求めるのか。独自の進化を遂げる韓国の出版・ブックカルチャーの最前線を翻訳者の小山内園子さんに伺った。
単なる「見せびらかし」ではない。「本を介した繋がり」を愛する若者たち
「テキスト・ヒップ」という言葉を聞くと、カフェなどで本を読む格好良い自分をアピールする、いわゆる“映え”や“見せ方”のムーブメントだと思われがちです。もちろんそういった面もありますが、本質はそれだけではありません。読書を通して自分の価値観やスタイルの軸を確立し、人生を充実させることが格好良いとされる、若者たちのひとつのありようなのだと感じます。
実際に韓国に住んでいる知人に話を聞くと、中高生などの若い世代が一冊の本を買って回し読みし、気に入ったところに線を引いて感想を書き込み、次の人に渡していくような文化も生まれているそうです。スマートフォンのない時代を知っている大人にとってはどこか懐かしさを感じる文化ですが、デジタルやSNSに親しんだ彼らにとっては、紙の本という物体を媒介にした濃密なコミュニケーションはどこか新しく、魅力的なものとして映っているのでしょう。
「手元に置く」「デコる」出版社と書店の“所有欲”を刺激する戦略
こうした若者のカルチャーを背景に、作り手である出版社や独立系書店も工夫を凝らしています。例えば、季節ごとに表紙の色を変えたり、自分でステッカーを貼ってデコレーションできる装丁にしてみたり。カラー印刷のコストが日本より比較的安いことも手伝って、本を単なるテキストではなく「所有したくなるグッズ」としてデザインする動きが活発です。
また、重く分厚い本を敬遠する若い読者のために、スマホサイズのカバンのポケットに収まる携帯用詩集のシリーズや、あらかじめWebで連載して話題を作り、限定公開後にスタイリッシュで気軽な紙の本として発売する「ウィークリーフィクション」といったレーベルも登場しています。特に「ウィークリーフィクション」は2023年の創刊から3年ほどで100巻を越え、超短編小説の流行を作ったと評価されました。
書店でも、封筒に入れて表紙を隠し、中身がわからない状態で販売するなど、読者との偶発的な出会いを楽しむ演出が人気を博しているんです。
