#9 カヒキヌイ
遠くに波の音がかすかに聞こえ、体を押す強い風の音が耳のそばを通り抜ける。大海原を前に、カヒキヌイの原野に立つと、自分のなかから何かが吹き飛び、無心になってしまう。考え事をしているときなどに行くには最適、決断を迫られているようなときに、間違いなく強く背中を押してくれるような場所だ。
手つかずの山肌には流れた溶岩の形跡が見える。約500年前に起こったハレアカラの一番新しい噴火の際の溶岩が斜面を流れ、海へと伸び広がったのだ。海岸線は黒々とし、ゴツゴツとした溶岩の姿が遠くからでもよく見える。カヒキヌイは古代にタヒチ(カヒキ)から渡ってきた多くの人々が住んだため、タヒチ・ヌイ(偉大なるタヒチ)と名前がついたと言われているが、現在は住人はおらず、大自然と史跡が残るのみ。島の東に位置するハナとウルパラクア高原をつなぐ、島の南斜面を抜ける一本道の途中である。
まさに陸と海の境界線にいるような気分になる。海の向こうのカホオラヴェ島を眺め、ケアライカヒキ、つまりタヒチへの道と呼ばれるカホオラヴェ島の東端とその向こうに続く大海に思いを馳せてみたり、絶え間なくぶつかり合う波と溶岩が作り出す音に耳を澄ませてみたり。押し寄せる波が溶岩にぶつかりはじける水音、引いていく波が水面下で転がす石が慣らす音色は、何度聞いても飽きないものだ。
風と海と大地の広がるカヒキヌイに、無限を感じるのは、自然と人間の歴史の移り変わりの最中に迷い込んだからか。旅の途中にさらなる別世界に誘われることは、間違いない。
【Access & Advice】
ウルパラクアから一本道を東へと車で20分ほど進むとカヒキヌイ。ウルパラクア高原のマウイズ・ワイナリー、ウルパラクア・ランチ・ストアを訪れる際に足を延ばしてみるのもよい。ガソリンスタンドはクラ、飲み物や食べ物を購入するのはウルパラクアが最後になる。携帯の電波の届かないエリアもあるので、運転には注意しよう。カヒキヌイ側の海で泳ぐのは危険。波打ち際まで下りる際は強い波に注意を。
神宮寺愛(じんぐうじ あい)
ライター・コーディネーター・翻訳(英語・ハワイ語)・フラダンサー。出版社勤務後、フリーランスになり、日本文化とハワイ文化に親しむべく、学びの日々を続けてマウイ島在住14年目。13歳の娘とイタリア系アメリカ人のパートナーとの三人暮らし。雑誌への寄稿多数、著書『心と体がピュアになるハワイアンな暮らし』(青春出版社)など。
2014.08.26(火)
文・撮影=神宮寺愛