およそ620年続いたオスマン帝国の美しき産物と言えるのはモスク、宮殿などの建築芸術。高い技術を携えた建築家によるモスク建立の舞台裏、煌びやかな宮殿の女性たちの暮らしを映すハレムのインテリアなど、壮大な歴史の足跡を感じながら名所を巡ってみたい。
オスマン帝国の権威の象徴 名匠が手がけた作品
◆Suleymaniye Camii(スレイマニエ・ジャーミィ)

オスマン帝国の黄金期を築いた皇帝、スルタン・スレイマン1世の寄進によって1557年に建てられたモスク。高さ約53mの巨大ドームは当時の最高レベルの技術によるもの。
金角湾を見下ろす丘の上に建つスレイマニエ・ジャーミィは、オスマン建築の最高峰と言われる建造物。見どころについて、美術史専門家のジラルデッリ青木美由紀氏に伺った。
「このモスクは3代のスルタン(皇帝)に仕えた宮廷建築家頭ミーマール・シナンの代表作の一つです。天井部の大ドームを2つの半ドームで支え、その荷重を“象の足”と呼ばれる柱で支える構造になっています。この造りによって光が入りやすく、明るさ、透明性をもたらしています。海から眺めると、大小のドームが織り成すダイナミックなリズム感を視覚的に辿れるのが特徴的。シナンはスレイマニエを丘の上に据えたことで、ビザンティン時代の大聖堂アヤソフィアと並ぶモニュメントとして、外から訪れる人が一目で分かるオスマン帝国的アイデンティティをイスタンブルに与えました」

権威あるモスクの内装は、シンプルな石のカッティングなどに限られ、端正な美しさが際立つ。シナンが手がけたモスクは他にもあり、シェフザーデ・ジャーミィはイスタンブールで見ることができる。


「シナンの口述自伝によると“シェフザーデ・ジャーミィは自分の徒弟時代の作品、スレイマニエは親方時代の仕事、名匠の仕事は(西部の街エディルネの)セリミエ・ジャーミィ”と述べています。この3つの作品でオスマン建築の古典を完成させました。見比べてみるのも面白いですよ」

Suleymaniye Camii(スレイマニエ・ジャーミィ)
所在地 Süleymaniye, Prof. Sıddık Sami Onar Cd. No:1, Fatih/İstanbul
電話番号 0212 458 0000
開館時間 8:30~日没の礼拝 ※礼拝時間は除く
定休日 無休

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2025.07.14(月)
文=梅崎奈津子
写真=杉山拓也
コーディネイト=松井和花
協力=トルコ共和国大使館文化観光局
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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。