でも、そうした駅だって、ちゃんと町を持っている。ただの悲劇の駅として片付けられるものではない人々の営みがある。本書では悲劇の駅として終わらせるのではなく、できる限りそうした営みの歴史にもアプローチしようと試みた。それが充分かどうかは読者諸兄の判断に委ねるけれど、少なくとも駅からはじまるちょっとした旅の物語、とでも思いながら読んでいただければ幸いである。

 そして。もしも本書を読むだけでは満足できず、実際に行ってみたいと思ったら。また、本当に悲劇に見舞われてたどり着いてしまったら。そういうときは、駅前で呆然として終わるのではなくて、少し駅の周りをうろついてみるといい。飲食店探しもいいけれど、路地裏にもその町の歴史が潜んでいたりするものだ。

 それを見つけ、疑問があれば町の人に尋ねたり、また帰って調べてみたり。そうすれば、通勤電車に乗るときにちらりと目にするだけの行き先の駅の名も、多少は違って見えてくる。そうなったとき、きっと人生はほんの少しだけ豊かになる……かもしれない。


「はじめに」より

ナゾの終着駅(文春新書 1488)

定価 1,045円(税込)
文藝春秋
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2025.04.05(土)