この記事の連載

他人と暮らす、関わり合うことの不思議

――「女二人の同居物語」といえば、赤裸々なガールズトークや女同士の連帯を押し出した作品が多いですが、こういう微妙な空気感を描いたものは、案外少ない気がします。

 私自身、そういった作品に共感する気持ちはあるし、実際、同居人さんとも女であることの大変さみたいなものを語り合って、連帯が深まったりもしているんですが、私が小田さんと大原さんの同居物語で描きたいのは、そういう方向とは違う。女同士とか関係ない、もっと根源的な「他人と暮らす、関わり合うことの不思議」を描きたい気持ちがありました。

――作中でも、小田さんと大原さんが「何で一緒に暮らしてんだろうね」と自問自答しますが、確かに不思議ですよね。他人と暮らしていると「洗濯物の干し方が違う」とか衝突することもあるけど、ひとりで思い通りの生活をしたらしたで、退屈かもしれない。

 ひとり暮らしも自由で楽しいですけど、私は生活に変化が欲しいタイプなので。やっぱり人と暮らすのが好きなんですね。この前、同居人さんが帰省して三日間ぐらい私ひとりだったんですが、食事も卵焼き用の小さいフライパンに油を引いて、卵を割り入れてぐちゃぐちゃしたのをご飯に乗っけて食べるみたいな、ズボラを極めたものばかりで、見事に生活が破綻してしまいました(笑)。

タオルやマグカップから感じる「生活の違い」

――大原さんが使うタオルの大きさに驚いたり、お互いが持ち寄った変なデザインのマグカップを並べて笑ったり。なんでもないシーンからも「人と暮らすことの不思議」が伝わってきます。

 私自身、人と暮らすなかで「お互いが送ってきた生活の違い」って、話してみてどうこうよりは、タオルとかマグカップのような具体的なモノで感じることが多い。今回それをビジュアルで描けるのも漫画ならではで楽しかったですね。

 いま同居人さんと住んでいる東京の家のリビングには、ひとり暮らしをしているときに古道具屋さんで衝動買いした大きな鉄製のパン棚があって、そこに二人の本やら化粧品やらが混じりあって並んでいる光景は、“汽水域”みたいだなと感じますね。

たなかみさき

1992年生まれ。生活や人物を風通し良く描くイラストレーター。作品集に『ずっと一緒にいられない』『あ~ん スケベスケベスケベ!!』(共にPARCO出版)がある。現在ラジオパーソナリティとしても活動中。

大なり小なり

定価 1,485円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク

次の話を読む「家族」や「恋人」でなくても、誰かと暮らした記憶が人生のお守りになる。30歳女性の同居を描いた注目漫画

2025.03.22(土)
文=井口啓子
撮影=佐藤 亘