この記事の連載
佐川恭一さんインタビュー#1
佐川恭一さんインタビュー#2
東大文一原理主義者の内山さん
――学校生活というと、社会の縮図のようなヒエラルキーが生まれますよね。スポーツが得意だったり、ルックスが良かったりする子がヒエラルキーの上位にいるのが一般的ですが、佐川さんの高校ではそうではありませんでしたか?
佐川さん ないない! とにかく勉強。本にも登場する永森ってやつ(※特進コースの劣等生。ひたすらノートにappleと書き続ける“大物”)は、イケメンなんですよ。でも、成績がとにかく悪かったのでヒエラルキーは最下位層でした。今は共学に変わっているので、そのへんの雰囲気も変わっているかもしれませんが。

――『学歴狂の詩』には、佐川さんと同じく、学歴と偏差値に取り憑かれた個性豊かな同級生がたくさん登場します。その中でも、東大文一原理主義者の内山さんは群を抜いて強烈ですね。
佐川さん 東大・京大・国公立医学部以外は高校の進学実績として無であり、そこを目指さない生徒はその時点で負け、みたいな恐ろしい雰囲気が漂う高校だったので、取り憑かれたように勉強しているのは私だけではなかったんですが、内山は特別でした。
――内山さんは、ご自身の東大文一対策だけでは飽き足らず、将来、自分の子どもを東大に入れるために神戸大学以上の学歴を持つ女性と結婚する、ということまで夢想していたのだとか。こういった会話は名門男子校では当たり前に交わされていたのですか?
佐川さん いやいや、内山だけです。さすがにみんな呆れてました。「東大文一に受からない奴は猿だ」とか、「受からなければ切腹する」と、本気で言っていましたから。受験前には自分の母親にも「もし落ちたらお別れです、今までお世話になりました」と伝えたらしいですからね。
あまりにも過激な発言ばかりして皆の反感を買い、柔道の授業の終わりに何人かに囲まれて一触即発の雰囲気になったこともあったのですが、一歩も引かない。とにかく一本筋の通ったすごいやつでしたね。見事、東大文一に現役合格したのはさすがでした。一応フォローしておくと、内山とは今も交流があるのですが、当時から比べると大分丸くなっています(笑)。
――伝説の英語教師といわれる、英語の宮坂先生も凄烈ですね。英作文が出来ない生徒の胸ぐらを掴んだりする授業の様子も強烈でしたが、生徒への英語教育には本気を感じました。
佐川さん ほんまに怖かったんですよ。今は大人気予備校講師として名を馳せていますし、彼の参考書がベストセラーになっているので、教えてくれたことは正しかったんだと思いますが、とにかく怖い。マジで震えてましたもん。
授業中にやる小テストの結果が悪いとしばかれるので、必死に勉強してたのに、今となっては英作文のコツなんてほとんど覚えてません。中学レベルの英語で書けというのはよく言われてましたけど、習った例文とかは受験が終わったら全部飛びました(笑)。
佐川恭一(さがわ・きょういち)
滋賀県生まれ。京都大学文学部卒業。著書に『ダムヤーク』『シン・サークルクラッシャー麻紀』『舞踏会』『アドルムコ会全史』『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』『就活闘争20XX』などがある。

『学歴狂の詩』
定価 1,540円(税込)
集英社
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2025.03.25(火)
文=高田真莉絵