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- ソ・イジェ インタビュー【前篇】
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韓国で最も権威があるといわれる「李箱文学賞」や、デビュー10年以内の作家が対象の「若い作家賞」など、デビュー数年にして数々の名だたる文学賞を受賞しているソ・イジェ。短編集『0%に向かって』の出版に伴い、来日を果たした。
モータウンサウンド、HIPHOPなど、一般的に“Kカルチャー”として人気のある音楽やドラマには登場しない「ソウルのB面」を描いたことでも注目を集めている小説だ。著者がソウル芸術大学の映画学科に通っていたというだけに、韓国の独立映画について書かれた表題作からは、韓国映画のB面も見えてくる。
それと同時に、韓国の独立映画などから現代社会を描くことで、若者のリアルだけでなく、それ以外の世代も含む人々の暮らしが見えてくるような小説になっている。
松田龍平、加瀬亮、岩井俊二や黒沢清…日本のカルチャーに影響を受けた
1991年生まれのイジェさんが映画学科で創作を志したきっかけには、日本の映像作品の存在もあったという。
ソ・イジェ(以下、イジェ) 「私の小学生のころに日本の文化が解放されて、日本の映画やドラマを韓国でも観られるようになりました。まずは日本の俳優に関心を持ちましたね。特に好きだったのが、松田龍平さんや加瀬亮さん。日本の俳優は、個性があって、自分の道を歩んでいるし、“自分の役割を果たしている”ようなところがあると思います。
私は、好きなものに関しては、こんな面白いものがあるよと、人に教えたくなる方なんです。韓国の同年代の友達の間では、加瀬亮さんは当時、そこまで有名ではなかったのですが、ネットの掲示板に『加瀬亮さんはいいよ』と書き込みをしたところ、他のユーザーさんから、『自分だけが知っている俳優としてひっそり応援したかったのに!』と言っている人がいて、そういう気持ちもあるんだなと気づきました(笑)」
『0%に向かって』の作中には、松田龍平の名前も、加瀬亮が韓国で主演した映画『自由が丘で』の監督のホン・サンスの名前も出てくる。
イジェ 「ホン・サンス監督の映画は好きですね。高校の頃に、いろんな映画を見るようになりました。日本の映画も好きで、そのころに岩井俊二監督や黒沢清監督の映画を見たことがきっかけで、私も映画監督になりたいと思うようになりました。そのころはまだ、『独立映画』という言葉やジャンルについて詳しく知りませんでしたが、今思えば、当時見ていた日本の映画も、独立映画だったんですよね」
小説の中には、現在のK-POPの礎を築いたともいわれるソテジワアイドゥルや、韓国の音楽プロデューサーでラッパーのGIRIBOY(作中ではGIRIBOYになりたい若者でごったがえす街角の様子が描かれている)、世界的な影響を与え、2010年に36歳の若さで亡くなった日本のトラックメイカーNujabes(その功績が先日、Eテレの『星野源のおんがくこうろん』で紹介されたことも記憶に新しい)などが登場する。こうしたところが、日本で彼女の小説が紹介されるときに、「韓国のB面」と言われる所以である。
映画や音楽に関心を持ち、映画学科に通っていた彼女が、小説を書こうと思ったのはなぜなのだろうか。
2024.12.24(火)
文=西森路代
撮影=山元茂樹
通訳=原田いず