京都や奈良には、できたての上生菓子がいただけるお店があって、ずっと羨ましいなと思っていたのです。目の前で作る菓子職人の技に見とれ、できあがったばかりの和菓子の口どけや風味に感動。もちろん、おいしいお茶と一緒に、です。
そんなお店が、私の暮らす神戸の街にできたので、早速、ご紹介します。
JR神戸線摂津本山駅の改札口から、南東に徒歩で3分程。お店がオープンしている時は、足元に小さな看板が置かれているので、見逃さないように。路地を入って、3軒並びの建物の中央が「汐音屋」。ごく普通の2階建て一軒家です。
「喫茶もお持ち帰りも、どちらも完全予約制なんです」と、店主・山崎ちひろさん。靴を脱いで上がった左手がウエイティングルーム。山崎さんお気に入りの手ぬぐいや懐紙、お店で出されるお茶がさりげなく並べられ、販売されています。
喫茶スペースは、急な階段を上がった2階の座敷。円形の座卓と足が痛くなりにくいカラフルな座クッションが置かれています。「2階へ上がるのがたいへんだという方は、1階の椅子席も利用できますよ」と山崎さん。
取材時の御菓子とお茶をご紹介しましょう。
薯蕷きんとんの菓銘は「錦繍」。秋が深まる紅葉の山の艶やかな美しさをイメージさせる御菓子で、中は丹波大納言小豆の粒餡。口に入れると、ほどけて消えてゆくような、はかなく優雅な一品。餡そのもののおいしさに魅せられます。
きんとんは、色付けされたそぼろ状の餡で様々な季節や情景が表現される、私が大好きな上生菓子です。いろいろ食べてきた中でも、山崎さんが作るきんとんは、とびきりのおいしさ! ほのかに酸味を感じる和紅茶との相性の良さに感動します。
「亥の子餅」は、猪の子・うり坊を模した御菓子。亥の月(陰暦10月)、亥の日、亥の刻(午後9時~11時)にこの餅を食べると無病息災を望めるという古代中国から伝わった行事食で、『源氏物語』にも登場するんですよ」と山崎さん。
茶道の炉開きの御菓子としても親しまれているそう。これは甘露煮にした栗と柿を、黒ゴマを入れた餅で包んでいます。柔らかな餅の食感、ゴマの風味、栗と柿の甘さで、まったりしたおいしさ。香ばしいほうじ茶とで、ほっこり。
薯蕷饅頭の「織部」は、安土桃山時代の茶人であり、武将の古田織部の指導によって創始された焼き物の釉、深緑を配し、井桁などの焼き印を押したもの。こちらも炉開きによく使われるといいます。皮には山の芋(薯蕷)を使い、中はこし餡。口どけの良いあっさりしたこし餡と生地の優しい甘さに、渋みのある煎茶がぴったり。
2024.11.10(日)
文・撮影=そおだよおこ