「健さんにお出しするときは、無塩バターで焼いたんですよ」

 高倉が亡くなってほどなく、改めてご縁を繋いでくださったのが、幾寅婦人会元会長の佐藤圭子さん。

 高倉がいもだんごを好きだったことをお伝えし、地元の味を直接教えていただきました。「その家ごとに、作り方は少しずつ変わると思いますけれど」とのことでしたが、ここで使われていたのはメークインでした。

 通称メーク。皮を剥いたメークを、4~8等分に切り分けて、少し塩を加えた水から茹でます。茹であげてから潰して、じゃがいもの3分の1ほどを目安に片栗粉を加えて、ぐいぐいと力強く捏ねていきます。

 全体にまとまり感が出て、滑らかなつや感がでてきたら、直径5~6cm程度のロール状にまとめて、1.5cmほどの厚みに切り分け、バターでこんがり焼き付けておられました。焼く前のロール状にしたものは、ラップをして冷凍保存ができるとのこと。

 「健さんにお出しするときは、無塩バターで焼いたんですよ」と、佐藤さん。

 毎年、高倉の命日には、駅舎を訪ねてくださるファンの皆様に、幾寅婦人会の有志の方々が、いもだんごと珈琲を振る舞ってくださっています。

2024年3月31日、『鉄道員』のモデル駅が廃駅に

 映画公開から25年目。

 2024年3月31日、映画では幌舞駅となっていた幾寅駅が廃駅になりました。

 まるで『鉄道員』の物語をなぞるかのような現実です。

 映画では、高倉扮する駅長の佐藤乙松に一本の電話が入ります。廃線の期日が予定より早まることを知らせるものでした。乙松が、思い出を次々フラッシュバックさせていると、降り積もる雪にすっぽりと覆われた幌舞駅に、高校の制服姿の少女が訪ねてきます。

 鉄道クラブに入っているというその少女は、乙松が蒐集していた鉄道グッズを嬉々として手にしていましたが、ふと遠くを見つめ、幌舞線がなくなるさみしさを乙松に問うのです。

 「後悔はしてねえよ。(深い吐息)どうすることもできないだけだ」と、呟いた駅長高倉の声がふと蘇りました。

2024.10.21(月)
文=小田貴月