「……衣服ばかりが派手であっても、中身がなければ意味がないのでは?」

 とうとう御簾越しに、冬木が嫌味っぽい一言を投げかけたが、それでも全くへこたれないのだから、ある意味天晴れではあった。

「ええ、ええ、まさにその通り。しかし、中央で貴族として認められるには、見た目もまた大事なのですよ」

 中央の娘達も衣服には汲々(きゅうきゅう)としているし、それを見る目も肥えているからおしゃれするのも大変で、その点、そういった俗世とは切り離された冬木さまは、清らかなお心をお持ちのようでうらやましい、とまでのたまった。

 なんとか話を切り上げて追い返したものの、あれがしばらくこの邸に逗留するのかと思うだけで、憂鬱になりそうだった。

「二度と近づけないで」

「私だって、お相手するのはごめんです」

 彼らは、北家に連なりはするものの、すでに本拠地を中央に据えている連中である。北領に来たのも初めてであり、遠乗りにでも出ればこちらに来ることもないだろうと思っていたが、その見通しは甘かった。

 彼らはせっかく地方に来ているというのに、領内を見て回ることもせず、翌日から「中央貴族の嗜みだから」と、蹴鞠を始めたのである。

「あいつら、本当に馬鹿なの!」

「全くです」

 冬木の部屋に面した庭からは、ひっきりなしに吞気な笑い声が聞こえている。

 さっさと帰ってくれればいいのに、と梓が言いかけたその時だった。

「あぶないっ」

 切羽詰まった声に、何事かと振り向いた次の瞬間――何か、ひとかかえもあるような塊が御簾を吹き飛ばし、勢いよく部屋の中に飛び込んで来たのだった。

 梓と冬木が悲鳴を上げる中、それは壁に跳ね返り、二階棚の上にあった鏡を落とし、床を跳ねまわった。

 何が起こったのか分からないまま、思わず冬木と抱き合うようにして(すく)み上がる。

 ――どんどん、と音を立てて転がったそれは、蹴立てた痕のある白い鞠だった。

 二人して唖然としていると、御簾がなくなった欄干の向こうから、焦った顔がこちらをのぞき込んだ。

2024.09.28(土)