「北家は政治下手よ。入内だけがお家の繁栄につながると考えているんだから、本当に救いようがない。これだけ軍事に長けているのだから、その気になれば宗家(そうけ)にとってかわることだって容易だろうに、わざわざ花街(はなまち)から正妻までとってしまうのだから」

 実の両親のことさえも、まるで他人ごとのような顔をして彼女は語った。

「知っている? 美人だったら入内出来るだろうって親戚連中がうるさいから、お父様は中央花街(ちゅうおうはなまち)で一番の遊女だったお母様を、わざわざ正室に迎え入れたのよ。上は、姫の顔も性格も気にしてなどいないでしょうに……父も母も兄も姉も、あの馬鹿な親戚達と一緒になって、おままごとに参加出来ないあたくしを哀れんでいるの」

 馬鹿みたい、と冬木は吐き捨てる。

 確かに、冬木の両親や兄姉は、冬木の心情を理解しそこねている部分があった。使いもしない雛人形やら簪やらを送ってくるあたり、何を冬木が喜ぶかも分かっていないのは明らかだったが、その反面、「冬木は一体何を好むのか」と、梓がこっそり呼び出されることも度々であった。本人が思うほど、両親は冬木に冷淡ではなかったと思うが、彼女はすっかり、自分の身内に絶望していた。

「もし、あたくしが男だったら――もしくは女を捨てて、男として官人になれるくらい体が丈夫だったら、北家を山内(やまうち)の頂点にすることだって出来ただろうに」

 それをたまたま耳にした侍女などは「出来もしないことを」と嫌な顔をしていたが、あながち夢物語などでなく、冬木だったら、本当に朝廷を牛耳ることだって可能かもしれない、と梓は思っていた。

 これだけ才気にあふれる人ならば、自分の思い通りにいかない体はさぞやもどかしいだろう。そうと周囲に認めてもらえないというだけで、彼女はひどく賢かったし、そしてそれゆえに孤独だったのだ。

「……この体では、どうせ子どもだって望めないのだもの。あたくしはきっと一生、ここで何にも出来ないまま、ひとりぼっちで死ぬんだわ」

2024.09.28(土)