標高3000メートルを超える、富士山にも似た美しい山アグン。この山はバリ・ヒンドゥーの信仰の中心です。

 バリ島の人達は独特の方位観を持っています。カジャと呼ばれる神聖な方位とクロッドと呼ばれる不浄な方位です。家寺などは神聖な方位にあり、トイレなどは不浄な方向にあります。その神聖な方位の中心こそがアグン山なのです。

  この写真を撮影したイセ村はアグン山の麓にあり、いまも古き良きバリ島を感じさせる場所です。1932年に名優チャールズ・チャップリンがバリ島を訪れていますが、このとき現地を案内したドイツ人の画家ヴァルター・シュピースは後にイセ村に移り住み、ここで名作を描き続けました。バリ島ファンの人なら、その名前は知らなくても、彼の描いた絵はどこかで見たことがあると思います。

  その後も村の小さな宿には、インドネシアのメガワティー元大統領、ロックミュージシャンのミック・ジャガーやデビット・ボウイなども訪れました。

 今も昔も、濃厚な熱帯の空気が時を超えて流れています。バリ島を心から愛する人達が静かに集まる村です。

小原孝博
1962年静岡県生まれ。日本大学芸術学部写真科卒業。出版社勤務を経て独立。バリ島では40回を超える撮影を行い、写真集『オラン・バリ』をダイヤモンド社より出版。バリ島や江の島などにて写真展も開催。6月10日より日本橋小伝馬町のiiaギャラリーにて写真展「光の音色」を開催予定。フォトワークショップは常時開催中。
Twitter @tak_KOHARA

2014.04.09(水)
文・撮影=小原孝博