結果的には、あらゆる整理が付いて、スッキリしたかたちで、その年の7月から実際の制作に入りました。すでにAパートの絵コンテは出来上がっていました。220枚のカットで構成された冒頭部分です。上映時間で言えば、おおよそ20分ほど。主人公の眞人がお屋敷に着いて、アオサギが登場するあたりまでです。

 宮﨑さんは説明してくれない。とにかく描いた絵を見せられるだけ。ストーリーや世界観も絵コンテで理解するしかありません。そこから作画監督はイメージを膨らませて絵を描いていく。それをもとに原画マンや動画マンの力を借りてコマを繋いでいくわけです。

 ところが、宮﨑さんはキャラクターの絵をどんどん変えていく。これも、普通のアニメーション監督と違うところでした。通常は最初に決めたキャラクター設定は変えないものです。例えば、眞人は当初の設定では坊主に近かったんです。戦争中だし、短髪の少年という設定でした。それが後になって、監督自ら、眞人の髪を長くしてしまう。

 ナツコに初めて会うシーンで、眞人が帽子を取ると意外に髪が長いでしょう? 僕自身、驚きました。でも、おそらく裕福で大きなお屋敷に住む御曹司の眞人を表現するのに、髪は長い方が良いと、宮﨑さんは考えたんだろうなぁと。監督から説明はなかったのですが、そう理解しました。

本田雄氏のインタビュー「宮﨑駿監督との真剣勝負」全文、およびインタビュー第2弾「宮﨑駿監督と庵野秀明監督」は、月刊「文藝春秋」2023年9月号、10月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

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2024.01.26(金)
出典元=月刊「文藝春秋」2023年9月号