非日常の楽しみと地元への思い

 棚が整然と並び、数十万冊の蔵書から検索機で目的の本を探せる効率的な書店、ベストセラーや話題の本が潤沢に入荷して買い忘れのない書店、必要な本を店頭で確認して買える書店。求められる機能はいろいろあるのだけれど、必ずしも生活必需品じゃない本を買うのだから、遊びでいいのだと思う。

『目でみることば』、これが「引っ張りだこ」だ

 洋書の棚にはスターウォーズ絵本を集めたコーナーがあり、レジ脇の柱には思わず、くすっと笑えるシリーズ『目でみることば』(「引っ張りだこ」や「長いものに巻かれる」を実際に写真に撮った辞書的な写真集)が、文庫売り場には実際には存在しない商品をあたかも実在するように描いたアートブック『ないもの、あります』をはじめとしたクラフト・エヴィング商會のコーナーがある。この本を読まないと世の中に遅れてしまうとか、これさえ読めば老後も安心という本ではない、遊びのある、非日常の本が魅力的だ。普段接したことのない新しい世界に触れ、日常の馴染んだ風景に少しだけ風穴が開く。非日常空間としての本屋さんを素敵に演出している。

『スリー・カップス・オブ・ティー』、1杯目はよそ者、2杯目はお客、3杯目は家族として

 そんな安田さんが最近取り組んでいるのが、「神奈川本大賞」(外部サイト)だ。神奈川県内の本屋さんの店頭でお客様に投票してもらって、神奈川県民みんなで決める本の大賞を作ろうというのだ。いいだしっぺは安田さん、今年2014年9月に第1回大賞が決まる予定。静岡書店大賞、京都本大賞、広島本大賞といった先行事例はあるものの、一からの立ち上げとなる今回、ご苦労は多いかと思うが、県内の書店員さんと連携を取って実行委員会を立ち上げ、マスコミへの対応や寄付の呼びかけ、応援イベントの開催など、精力的に取り組んでいる。書店員や出版関係者ではない普通の県民にも参加してほしい、ジャンルを小説に限定せず、ご当地本だけにもこだわらない、ネットではなくて店頭での投票で決めるというこの賞、地元の本屋さんとしての心意気を感じる。

 そんな安田さんと、紀伊國屋書店横浜みなとみらい店が、ハレの場としての楽しさと、地元の本屋さんとしての思いをあわせ持ちながら、どんな素敵な本屋さんとして成長していくか、これからも注目していきたい。

安田有希さん、オススメ本『骨を彩る』とともに

【CREA WEB読者にオススメ】
 安田有希さんのオススメ本は、彩瀬まるさんの『骨を彩る』(幻冬舎)。『あのひとは蜘蛛を潰せない』で鮮烈な長編小説デビューを飾った著者の連作短編集。イチョウの葉の舞い散る表紙が美しい。「劇的な何かがあるわけではない、答えをくれるわけではないけれど、欠けているところに入ってくる、自分の栄養になる物語。ぜひ手に取ってほしい」と安田さん、多くの書店員さんが応援している期待の作家さんだ(前号、ブックポート203中野島店でもオススメされてました)。

紀伊國屋書店横浜みなとみらい店
所在地 神奈川県横浜市中区桜木町1-1-7 Colette・Mare みなとみらい5階
営業時間  11:00~20:00
URL http://www.kinokuniya.co.jp/contents/pc/store/Yokohama-Minatomirai-Store/
Twitter https://twitter.com/kino_minato

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2014.01.25(土)