この記事の連載

 映画ライターの月永理絵さんが、新旧の映画を通して社会を見つめる新連載。第3回となる今回のテーマは、「誰かと暮らす」

 現在公開中の映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』の主人公・安希子が56歳の男性と暮らすことで起きた“変化”とは?


誰かと暮らし、やがて一人で生きていく勇気を得る

 家は、自分を守ってくれる大事な場所。小さくても、住みづらくても、プラベートな空間を持つことは、人が生きていくうえで不可欠だ。ただし、誰とどんな形で暮らすのか、その選択は人それぞれ。ひとりで暮らす。パートナーや友人と暮らす。家族と暮らす。ペットと暮らす。もちろんそこには経済的な理由が大きく関わる。特に物価の高い都会では、ルームシェアや下宿という形で他人と暮らすのもひとつの方法だろう。そして、必要に迫られて選んだ生活が、思いがけずかけがえのない時間になることもある。

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 現在公開中の映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』は、経済的な事情から、他人と一緒に暮らす選択をした若い女性の物語。元「SDN48」のメンバーである大木亜希子が自らの体験に基づいて執筆した小説をもとに、穐山茉由監督が映画化した。

 映画は、まず主人公である安希子(深川麻衣)の紹介から始まる。現在29歳の彼女は、数年前に人気アイドルグループを卒業し、今は会社員として新たな道を歩んでいる。仕事は順調、私生活も充実して……と本人はアピールするが、実は思ったような仕事ができず、恋愛もうまくはいっていない。理想と現実のギャップが広がるにつれ、安希子の心は疲弊し、ついに会社を辞めることに。

 困窮し、家賃が払えなくなった彼女に、友人のヒカリ(松浦りょう)はある提案をする。それは、一軒家で暮らす56歳のサラリーマン、通称ササポン(井浦新)との同居生活。見知らぬ中年男との同居なんて、と戸惑う安希子だが、家賃の低さに惹かれ、少しの間ならと同居を始めることに。

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2023.11.30(木)
文=月永理絵