「自分の若い頃の声はどんなだったかなあ」

──また舞台とは異なる表現方法が必要だったんですね。

 やっぱり自分の肉体から湧き上がってきたものを演じるのと、ロミを目撃しながらそこに声を乗せていくというのは、全く違う作業ではありました。歳をとったロミを演じる時には、「歳をとった時の声ってどんな感じだろう」と、いろいろと声を出してみたのですが、「そこまでリアリティを必要とはしていない」と演出を受けたので、少し落ち着いたトーンにして。

 逆に、20歳のロミを演じるときは「自分の若い頃の声はどんなだったかなあ」とは思いながらも(笑)、溌剌として、考え方にも瞬発力があって、好奇心に溢れている。そんなロミをイメージしました。いろんなことを経験したロミと、これから経験するロミっていうのを、意識しながら演じていましたね。

──ロミがエデン17で出会う少年・コムと話す時の声色はとても優しく、母性のようなものを感じました。宮沢さんご自身が母親であることや、娘さんへの思いなどとリンクした部分はありましたか?

 もちろん自分に子供がいる経験が、演じている上で役立ったというのは、きっとどこかにあったと思うんですけど、とにかく、コム役の吉田帆乃華ちゃんの声が本当にかわいくて……! とっても素直でピュアで、アニメに声を乗せるという気負いがなくて、その姿にすごく救われました。アニメ声優の方たちが持つ独特のエネルギーや、窪塚洋介さん(ジョージ役)やイッセー尾形さん(ズダーバン役)など、私と同じ俳優の皆さんが入れた声ともまた違うものを持っていて。録音自体は1人ひとりの孤独な作業でしたけど、帆乃華ちゃんの気負わなさや、皆さんの声にたくさんの影響を受けながら演じていました。

──この作品から、ロミの「それでも生きていく」という強さを感じました。宮沢さんは『火の鳥 エデンの花』を通じて、“生きること”をどのように捉えましたか?

 きっとそれぞれ、生きることへの考え方は違っていて。普遍的なテーマで、はっきりとした答えが出ないからこそ、こういう映画が作られていくのだと思うんです。私自身もまだ答えは出ないけれど、美しかったエデン17が欲にまみれてどんどん変化していくシーンは、きっと今の私たちにもつながっているんじゃないかなと。

 自分が生きていく時間は、地球が存在する壮大な時間の中では、本当にあっという間なのかもしれない。でもその中で、自分たちが生きる美しい地球を守っていくというメッセージを、子供たちに伝えていけたらなと。その子供たちが大人になった時に、またそれを次の世代の子供達に伝えていく。そういう連鎖を紡いでいかないといけないんだなあっていうのは、この作品を通じて、ロミから教えてもらったことですね。

2023.11.09(木)
文=石橋果奈
撮影=平松市聖
ヘアメイク=黒田啓蔵
スタイリスト=後藤仁子