水田 ネタバレにならないところでいうと、平泉成さんの場面です。ベテラン俳優たちの辞書には、「やっつけ仕事」という文字はない。スイカを勧める場面を見逃さないでいただきたい。

石塚 原作小説と映画には違う部分もあるのですが、このことについても、真保さんはご理解をいただきました。

真保 映画化の打ち合わせの最初に、「映画と小説は違う表現物である。我々にもやりたい部分がある」ということを言われました。それは理解できました。ただ、私がかかわった映画で、ミステリーとして成立していない映画もありましたから、ミステリーの部分だけは壊さないでほしい、ということを申し上げました。最終的には、映画は監督のものですから、お任せしました。

水田 私たちの意図は、家族が誘拐されて「被害者」となった政治家一家が、実は社会的には「加害者」でもあった側面を、描きたいと思ったんです。宇田家が「加害者」であることを明確にするためには、犯人たちのドラマが必要でした。そのために、原作の構造を壊さない範囲で、そこを創作させていただいた。その過程で真保さんに、矛盾点や弱点をたくさん指摘してもらいましたね。

真保 うるさい原作者のことが嫌にならなかったですか?

水田 良いシナリオがなければ、良い映画が撮れるわけがありません。このブラッシュアップは、ギリギリまでやるべきなんです。

真保 とことんお付き合いくださってありがとうございました。映画が完成したあとに、水田監督と、こんな和やかに話せるなんて。素晴らしい映画が完成して嬉しいですね。今作は、一瞬も見逃せないスピード感のあるサスペンス映画です。映画館の座席で、安心して身をゆだねて、楽しんでもらえたら、と思います。

写真=山元茂樹/文藝春秋

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2023.10.30(月)
文=真保 裕一,水田 伸生