真保 実際話すと、男っぽいし、芯がある方でした。だから今回の晄司のような役を望んでくださっていたのかもしれないですね。当初、石塚プロデューサーから「晄司役は、中島健人さんに打診をしたい」と聞いたときに、ラブコメに出ている印象があったので少し驚いたんです。でも、地上波のドラマ『砂の器』で、天才作曲家・和賀英良を演じておられたのをみて、この方なら大丈夫だ、と。その想像を、軽々と越えていく演技で、本当に感激しました。

水田 父親役の堤真一さんも、当初から、健人さんを認めていたんです。彼の武器は、リアルな身体の動きです。ライブステージで鍛えられているんです。さらに、中島さんの意識は「他者への視点」にある。だから、あの演技ができたんだと思います。

真保 現場でのケンティは、どんな様子でしたか?

水田 撮影は、とてつもなく暑い夏だったんです。屋外での待ち時間も長いですから、女性スタッフが、健人さんに日よけの傘を差しだすんです。自らは強い日差しのなかにいるのに、スタッフたちは皆笑顔で、とても幸せそうでね。

真保 スタッフの微笑みが、目に浮かびますね。

石塚 刑事の山崎育三郎さんと、健人さんが屋上で対面するシーンがあるんですが、このとき、健人さんは徹夜をして撮影に臨んでくれたんです。誘拐犯、さらには政治権力と対峙する中で、彼が追い詰められる場面は、鬼気迫る表情でした。自分の追い込み方は、すさまじい俳優だと思いました。

 

池田エライザの演技に、真保裕一が涙ぐんだ!?

真保 そして池田エライザさんも、娘を奪われた母親の役を見事に演じ切っておられた。あやうく泣きそうになったことを池田さんに伝えたら、「泣いてくださいよ」と言われました。隣に水田監督もいたし、絶対に泣きたくないな、と思っていたんです。

水田 遠慮せずに泣いてくださったらよかったのに。

真保 ネタバレになるから、どことは言えないですが、あるベテランの方がワンシーンで見せる輝きも素晴らしかった。あの表情は……!

2023.10.30(月)
文=真保 裕一,水田 伸生