「薬の飲み方と一緒で、“逃避”にも良し悪しがありますよね。引きこもってゲームばかりしていた主人公は、完全に悪い逃げ方をしていました。そのせいで崖っぷちに追い詰められてしまったわけですが、もちろん彼がオンラインゲームに逃げ場を見つけてなかったら、もっと早く、彼自身が壊れてしまっていたかもしれませんね。」
逃げる場所があるなら逃げこんでいい。ゲームの中だって、小さな島の温かな人間関係だって、シェルターだ。
「現代の若い方を見ていると、追い詰められた、もう終わりだ、となってしまうケースがあまりにも多いような気がしていて、そこは特に若い世代に伝えたいと考えて、以前から作品には盛り込むようにしています。もしかすると後ろ向きな解決だと思われるかもしれないですけど、現実的に起きていることを救うとすればありではないか、少なくとも選択肢の一つにはしてもらいたいと思っています。」
加納さんの小説を読んで、選択肢が一つ増える人がいるかもしれない。遠回りでも、世間的に正解でなくとも、自分の答えに辿り着ける人が一人でも増えますように。
できたら続編が読みたい。
まだまだみんなの人生は途中。もう少し、みんなのこれからを見ていたい。
例えば、すっかりこの島に馴染んだ【刹那】たちが、おじいちゃんおばあちゃんにESを手ほどきして、歴戦のニュービーが爆誕するお話とか。新しい住民でとうとう女子が来ちゃうお話とか(そしてサトシがキャラ変する)。チャットのお見合い話とか。二百十番館に起きる怪奇現象とか。【BJ】さんの島おこしラーメン開発記とか。貝毒の超有望若手研究者となったヒロ(あだ名はさかなクンならぬ、かいどクン)の学会発表をみんなでサポートする話とか。【刹那】が調理師免許を取って郵便局カフェを開いてお客さんが殺到するお話とか、読みたいです。
いつかまた、この島に戻ってこられますように。
2023.08.28(月)
文=池澤 春菜(文筆家・声優)