この記事の連載

本作のテーマは「自分自身にどう向き合うか」

――パリという街は、高橋さんの目にどう映っているのでしょうか。

 パリに限らず海外に行くたびに、土地や風土が変わると、建築、文化、教育がここまで変わることに驚きます。例えば、日本ではビルとビルの間に隙間を作らなければいけないけれど、パリでは全く隙間がない。そしてその建物を何百年も使っている。

 歴史的建造物の中では禁煙ですが、外ではどこでもお好きに吸ってくださいといういい加減さがたまらないなと思いました。そういうおおらかさ、良い力加減という意味でのいい加減さは、日本にはないところ。フランス人はみんな自由だと感じました。ホテルマンの方ですら、自分の仕事をするために、勝手に部屋に入ってきましたから。

――日本が相対化されたんですね。

 良い悪いはさておき、日本の外に出ることで、日本がどういう国なのかがわかってくるというのはあると思います。僕は基本的に日本が好きなので、なんだかんだで結局日本に戻りたくなるのですが。自分が育った場所として、ルーツとして、戻りたくなってしまう。それは山に登る感覚にすごく近いものがあります。

 「何のために山に登るんですか?」とよく聞かれますが、理由や目的なんてものは基本的にありません。けれど、強いて挙げるならば、山に登ると自分の身近な人に会いたくなる。海外に行くとそういう感覚になれるというのはあります。「やっぱり日本の米が食べたい」といった感情は、そこではない場所に行かないとわからないことのような気がします。

――最後に、高橋さん目線での、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のテーマや魅力をお聞かせいただければと思います。

 やはりルーツだと思います。先ほどもお話ししたように、海外に行かないと日本というものに焦点が合ってこない、近すぎると焦点の合わせ方がわからなくなってくると思うんです。『~ルーヴルへ行く』は、露伴が自分のルーツがそこにあるかもしれないと予感しながらも、まさかそれが自分の過去に繋がるとは思わずに日本の外に出たことで、ようやく自分のルーツにたどり着きます。

 最初から内へと深く潜っていくことはできなくて、一度外に行かないと、自分の内面に向き合っていくことができないというのは、ある意味哲学的な思想だと思います。自分が自分自身にどう向き合っていくか。それが大きなテーマになっていると思います。

» 【前篇】はこちら

衣装クレジット

シャツ 42,900円/アルテリア(イーライト) パンツ 33,000円/ヨーク(エンケル) その他/スタイリスト私物

高橋一生(たかはし・いっせい)

1980年12月9日生まれ、東京都出身。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。6月17日に開幕する舞台、NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(作・演出 野田秀樹)への出演を控える。

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』
2023年5月26日(金)ロードショー

演:高橋一生 飯豊まりえ / 長尾謙杜 安藤政信 美波 / 木村文乃
原作:荒木飛呂彦「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」(集英社 ウルトラジャンプ愛蔵版コミックス 刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植伊佐夫
製作:『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
配給:アスミック・エース
© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
https://kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp/

← この連載をはじめから読む

2023.05.25(木)
文=須永貴子
撮影=三宅史郎
ヘアメイク=田中真維(MARVEE)
スタイリスト=秋山貴紀[A Inc.]