――ペンネームで出版することは考えなかったんですか?
太田 考えなかったですね。これまで小説を2冊出して、「太田 光が出すぎている」ってそれはもう死ぬほど言われたんですよ。「読んでいたら太田 光の顔がちらつく。物語に没頭できない」って。だから、名前を隠すっていうより、「これならどうだ! 面白いだろ」という作品を書きたかったんですよね。
16歳の俺? それはもう、大絶賛するね!
――『爆笑問題・太田 光自伝』(小学館)では、「16歳の頃からチャップリンのようなコメディ映画を撮りたかった」と語っています。今作を当時の自分が読んだら、どう思うと想像しますか?
太田 俺? 俺はもう大絶賛! それはもう、「すごいね!」って言うんじゃないですかね。
――特にどの場面が好き、って言いそうですか?
太田 244ページからの「ノースレイク」。湖のほとりで、主人公の富士見とアンが話すあたりじゃないかな。
俺はこの作品で、映画『社長漫遊記』、『無責任』(以上、東宝)シリーズ、それに『ローマの休日』(パラマウント・ピクチャーズ)の3つを合わせたかったんですよ。
特に『ローマの休日』の冒頭シーンが好きで。お姫様役のオードリー・ヘップバーンが、偉い人たちからあいさつを受けながら、退屈そうにする。ドレスの下で靴を遊ばせて、ポンッと落っことしたりしてね。物語の中盤には美容院でショートカットにして、グレゴリー・ペックとベスパに乗って遊んじゃう。ああいう洒落た、古き良きハリウッド映画のコメディの感じを出したかったから。
2023.03.08(水)
文=ゆきどっぐ
撮影=榎本麻美/文藝春秋
スタイリスト=植田雅恵