僕はやれることをやるだけ、自分自身を愛しているんです
――実はもう41歳なんですね。今回、ドンスを演じるドンウォンさんには、背中や肩に、良い意味でおじさんらしさが感じられました。良い意味で、ですよ(笑)。中年の悲哀というか、少し年齢を感じられたというか。
そうですね。僕自身の背負っているものがどんどん増しているので、そう見えることは自然だと思います。
――デビュー以来ずっと、花美男(コッミナム。花のような美男子という意味の造語)とか、イケメン過ぎると言われ続けていることに、俳優として壁を感じていませんでしたか?
個人的には、全然それは気にしてはいないんです。僕はやれることをやるだけですから。おそらく僕の映画を観ていない人たちには、カン・ドンウォンに対する固定観念があるのかもしれない。でも僕は気にしませんし、実際に俳優として足りない部分もあるとは思いますが、日々良くなっているだろう、という前向きな気持ちで取り組んでいます。僕は、僕自身を愛していますから。
――なんて素晴らしい! 自分を愛することは大事ですね。では今回の『ベイビー・ブローカー』が俳優としてのターニング・ポイントになったという実感はありましたか?
この映画が特別なターニング・ポイントだとは思ってはいないんです。僕は毎回、作品ごとによくなろうと思って努力していますし、それぞれの映画の持ち味もありますし。
でも、『ベイビー・ブローカー』での僕にこれまでと違いがあったとすれば、やはり欲を出さなかったこと、力を抜いて演じることができた、というのは間違い無くありますね。ただ、またアクションなどのジャンル映画に戻った時に、それができるかどうかはわかりませんが。
――力を抜いて演じられた理由として、是枝監督だから、ということはありますか? 私がカンヌの記者会見で質問した際に、ドンウォンさんは「是枝監督は(モニターの前にいるのではなく)役者のとても近くにいてくれる」というお話をされていましたね。
はい。是枝監督の演出スタイルによるところが大きいとは思います。毎回、力まずに演じようと努力はしているんですが、なかなか思うようにいかないので。そして、今回とても久しぶりに現実的なキャラクターを演じられた、ということもありますね。
――是枝監督からは「脚本は3分の2程度しか固めていなかった。結末を決めずに撮り始めた」と伺いました。
撮影に入るときに、撮影稿として最後まで書かれているシナリオはもらいました。でも、変えるかもしれないとは言われていました。
だから監督は、3分の2という言い方をしたのかもしれませんね。結末は一応あるけれども、決めてはいないというか、開かれているという状態で撮り始めたという形でした。
そしてエンディングに向かって順番に撮りながら、監督とキャスト、みんなで話し合い、着地点を決めていくというやり方をしました。是枝監督からはずっと、どう思うか意見を聞かれていて、僕も考えを伝えていました。
2年前、リモートで取材した際は、冒頭で紹介した通り、なんともいえないお茶目さが画面越しにも伝わってきた。こんな弟がいたら最高に可愛いのになあ、とつい本人にも言ってしまうほど。ドンスには、そんな彼の持つ温かみが存分に生かされている。
2022.07.02(土)
文=石津文子
写真=榎本麻美