毎日がオーディションだったAKB48

「オーディション低迷期」は2003年あたりから十数年続く。SNSの急速な進化によって、自分で発信できるようになり、メジャー離れが加速していったのが大きな理由だ。

 ただ、テレビでのオーディションが減った代わりに、地下劇場やライブハウスでは、日々アイドル(のタマゴ)たちのサバイブが激化した。選抜メンバーになっても、いつ後列になるかわからない。スタート地点は始まりではなくゼロだ。AKB48をはじめ、ライブをメインにしたグループアイドルの在り方はまさに「エブリデイオーディション」システム。

 AKB48の「Beginner」(2010)という曲が凄く心に残っている。常にゼロ地点を意識する歌である。

 

「僕らは夢見てるか?」と問いかける歌詞は「君らは“ちゃんと、子どもみたいに純粋に”夢を見れているのか」と言われている感も見えて、少女たちの戦いぶりがヒリヒリと伝わってくる。実力をつけないと置いていかれるけれど、同時にまっさらに戻ることも願われる。なんという過酷なサバイバル!

 AKB48の人気が上がっていった同時期、SNSの発展で、ボカロPやYouTubeの「歌ってみた」「踊ってみた」など個の発信で注目を集めていく人々も続々登場した。私もうっすら知ってはいたが興味を持ったのはかなり遅い。2007年に初音ミクが“デビュー”したが、どこか心に壁があった。「テレビっ子の魂100まで」で、新たなエンタメ形式がなかなか理解できなかったのだ。

 その価値観が変わったきっかけは結局テレビ。紅白歌合戦で聴いた米津玄師の「Lemon」である。良い曲・良い声、人柄が伝わる自己紹介にビックリし、今まで聴き逃していたことを悔いた。「これからいろんなところから、素晴らしいアーティストが出てくる時代。聴かず嫌いをしていたらもったいない!」と後頭部をはたかれた思いがした。アンテナはフルに立てておかなければ感動を逃すぞ、と!

2022.04.15(金)
文=田中 稲