《奈良》奈良ホテル
明治42年創業。関西の迎賓館とも言われた「奈良ホテル」。本館の建築は東京駅や日本銀行本店などを手がけた建築家・辰野金吾氏によるもの。その「奈良ホテル」のクッキー缶。ロイヤルブルーの缶には、日本最古の文様とも言われる「宝相華(ほうそうげ)」が印されており、古の美しさを放つ。「宝相華」とは仏教の8枚の花弁の花と蔦が描かれている唐草文様のことで、中国では唐・宋の時代に、日本では奈良時代、平安時代に流行ったと言われている。奈良時代には多くのものに「宝相華」の文様があしらわれ、「奈良ホテル」からもほど近い正倉院の宝物にも多数見ることができる。
《長崎》長崎クルス
現在は「小浜食糧株式会社」が手がける「長崎銘菓クルス」だが、発売当初は湯せんぺい(せんべいではなく“せんぺい”が正式名)の製造をしていた「小高屋」が現在のものとは違う形で手がけていた。「小高屋」の三代目小高国雄氏が、来崎していた鈴木信太郎画伯(「マッターホーン」(学芸大学)や「こけし屋」(西荻窪)の包装紙で有名)に「“クルス煎餅”という菓子を作りたい」と伝え、シスターの絵や「クルス」の文字を描いてもらったという。「小高屋」から画伯の絵一連を買い付け、小浜食糧が開発した現在の「クルス」は当初、駅の売店「キオスク」での販売からスタート。そのため、売り場で目立つデザインにしたいということから、黄色い缶になったという。その効果あって、当時、長崎駅では「黄色いパッケージで売れるのは“森永ミルクキャラメル”と“クルス”だけ」とも言われるほどだった。
2021.11.07(日)
文=中田 ぷう