ド迫力CGとARで 13ヶ国語対応の韓国

 海外を見てみると、世界でもいち早く大規模な有料配信ライブを始めたのが韓国だ。IT大国ならではの多彩な映像テクニックも特徴だが、何といってもグローバルの顧客を対象に、決済システムや字幕表示に対応している点が大きな強みで、現在も様々なライブやイベントが、活発に海外へ配信されている。

 最も早かったのが、東方神起などが所属する韓国の大手芸能事務所のSM ENTERTAINMENTによる有料配信ライブの「Beyond LIVE」。4月26日にスタートし、5月31日まで5週に渡り日曜の夕方に配信ライブを実施した。

 ARを駆使した視覚効果で、リアルなステージとダイナミックなCGをミックスさせた映像は圧巻。ステージ全員のフルショットと、メンバー別のアングルに切り替えられる機能もある。

 MCタイムにはLEDに数百人の視聴者を映し出し、直接コミュニケーションも。字幕も13カ国語から選択でき、双方向にすべく細かい配慮がなされていた。

 なお同シリーズは、8月9日のTWICEを皮切りに、SM ENTERTAINMENT所属以外のアーティストを含むグローバルチームの配信ライブを継続する予定だ。 

 同じく世界的に活躍するダンスチームのBTSは、6月14日に「BANG BANG CON The Live」を開催。画期的なのは、ブルートゥース内蔵の公式ペンライトが、配信ライブと連動して光るシステムを採用(4月に行った過去のライブ映像配信イベントでも実施)。世界107の国と地域で75万6000人超が視聴したと発表された。

 6月20日~26日は、例年は日本をはじめ世界で大規模なK-POPやKカルチャーのイベントとして開催されているKCONが、今年は「KCON:TACT 2020 SUMMER」として世界へ向けて生ライブを配信。

 1日4~5組ずつ、ライブとミート&グリートを交えた毎晩4時間の生配信を実施。1週間で世界150の地域から有料・無料合計405万視聴があり、過去8年間の延べ来場客を3.5倍超える結果を出した。

「目の前に観客がいないのに……」現場の苦労

 実際に配信ライブを鑑賞した人たちの感想を聞くと、「配信でしか見られない演出があり、チケット代以上の満足が得られた」「子供がいてライブに行きたくても行けなかったので、鑑賞できてうれしい」「映画館でライブ中継の上映を観に行くと静かに見る人が多く、現場との隔離感を覚えることもあるが、家でなら騒ぎ放題」「全員が画面のこっち側だから、見えない一体感があった」等々の反応が見受けられ、音楽好きな人たちには、“生ライブの代替”ではない、新しい娯楽として受け入れられている。

  こうした結果は各主催者が、“生ライブ以上の付加価値”を付けるべく、従来の生ライブ以上に工夫をこらしている証だろう。

 配信ライブを行った関係者によると、「コロナ禍でも頑張って配信をしましたという“応急処置”に映らないよう、いつものライブ以上にアーティストの表情やコメントについて話し合った。

 アーティストにとっては、目の前に観客が居ないのに数時間モチベーションを維持することがとても難しい。画面越しの“見えない観客”を極力意識することを事前に話し合い、現場スタッフも通常以上に盛り上がってライブの熱量維持に努めた」と振り返っており、現場の苦労が窺える。

視聴環境や手数料は プラットフォームにより千差万別

 もちろん、オンラインライブには課題もある。配信ライブのプラットフォームは、この春以降に立ち上がったものが大半で、プラットフォームによってはサーバーダウンや遅延などの問題が度々起きている。そのため主催者側も、複数のプラットフォームを準備するケースもある。

 それぞれのプラットフォームは音質や画質はもちろん、視聴環境の幅広さ、決済手数料、コメントや投げ銭システムなども千差万別。録画ガードの有無もまちまちで、配信における権利保護の改善が指摘されている。

 目下各プラットフォームにおいて、様々なシステム改善やサービス提供が切磋琢磨されている最中だ。

 そして有料配信ライブがビジネスとして生ライブを超える成果を生むか否かでいうと、何とも難しい。通常ライブの半額前後のチケット代で、撮影や演出機材・システムの投資の回収を行うには、何万人と視聴者を集める人気チームのライブでない限り容易ではない。

 本来のツアーが中止になった損害などを差し引きすると、単純に視聴者数から計算する利益だけで損得は語れない。

 さらに通常ならば地方ツアーを行うライブが多いものの、配信ライブは都心での実施に限られている点で、地方のライブ関係者の雇用やビジネスは失われたままだ。

 配信ライブを行う関係者たちの声を聞いていると、配信ライブを実施しようとするモチベーションは、ビジネス以前に、エンタテインメントを能動的に動かそうとする気概に尽きる。

 感染状況次第では、企画したイベントすら実施できない可能性もあるが、今出来ることを前進させることに尽力していると感じる。

 配信ライブを通して、いつかはあの会場で観たい・会いたいと思いを募らせる観客を一人でも多く生むことで、ライブビジネスの未来に繋げていると考えられる。

2020.08.10(月)
文=筧 真帆