鉛温泉 (岩手県)

 宮沢賢治は出湯の宝庫である花巻に生まれ、生涯、温泉郷と深く関わった。幼少より当地の温泉に通う小佐野氏は「この温泉郷そのものが彼にとってイーハトーブ、桃源郷ですね」と説く。

 鉛温泉・藤三旅館も賢治と縁のある宿で田宮虎彦が小説を執筆したことでも知られる。

 ここでは「立ち湯がおすすめ」と小佐野氏。

 深々とした岩湯船の中へゆっくり立ち入れば足元から湧き上がる湯が全身を伝う。

中棚温泉(長野県)

 千曲川のほとりに立つ中棚温泉・中棚荘は島崎藤村が教師として小諸へ赴任した当時に通った湯宿だ。教育者の木村熊二らとここで語らい、思索と創作を重ねたという。

 「露天風呂は掛け流し。お風呂への廊下や畳敷きの脱衣場など雰囲気もいい」と小佐野氏は話す。

 源泉より豊富に湧く湯は肌に優しい単純温泉。

 秋から春は内湯にりんごを浮かべ、名詩『初恋』のごとく甘やかな香りに浸らせる。

城崎温泉(兵庫県)

 太鼓橋の架かる川沿いに柳並木が走り、個性溢れる7つの外湯が立ち並ぶ。この温泉に文人は魅入られてきた。

 「創作と温泉を語るときに城崎は外せない」と小佐野氏。

 日本を代表する私小説『城の崎にて』がここで誕生した。

 2013年、志賀直哉の来湯百年を迎えた当地は次の百年を見据え、温泉と芸術にちなむ企画展を開催し、宿の若旦那衆が本も出版。次世代の文人を惹きつけている。

※初出:文藝春秋 2023年2月号
※記載内容は変更されている場合もあります

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