現在は記念館となっている開高健の自宅から、ラチエン通りを北に歩いて15分のところにある「すし善」。1974年から15年間を茅ヶ崎で過ごした作家は、肩こりを解消すべく通い始めた水泳教室の帰り、疲れた身体でフラリと店に寄り、おやつ感覚で鮨を平らげた。

「必ず入口手前から2番目のカウンターに座り、先代の父と談笑しながら召し上がっていました」(二代目店主・冨田勝人氏)

 食通で有名な開高。店を訪れるファンから「どのネタ、どの酒を好んでいたか」と聞かれることも多いが、店主曰く鮮度の高い旬の魚を、酒ではなく熱い茶と共に愉しんでいたという。

 仕事が立て込んだ時は出前も頼んだ。店主は編集者が出入りする自宅に多い時で週5回も鮨を届け、執筆で缶詰状態の美食家の胃袋を満たした。

※初出:文藝春秋 2024年1月号
※このお店は現在閉店しています。