幻の花・カッコソウが繋ぐ、自然保護と未来へのバトン
尾根道を気持ちよく歩き進めること約20分。周囲が明るい新緑の森から、静ひつなスギやヒノキの植林帯へと変わる頃、私たちは目的のカッコソウの群生地に到着しました。
世界中で、この鳴神山周辺の限られた環境にしか自生していないというカッコソウ。サクラソウ科の多年草で、可憐なピンク色の花を咲かせる大変貴重な絶滅危惧種です。
静寂に包まれた柵の周りを、みんなでくまなく探してみます。しかし、やはり齋藤さんの予感通り、今年の開花時期はすっかり終わりを迎えてしまったようで、辺りには瑞々しい緑の葉が広がるばかり。残念ながら、一輪の花も見つけることはできませんでした。
「うーん、やっぱり終わっちゃっていましたね」と、少し肩を落とす吉岡さん。けれど、周囲の緑を遮るように差し込む美しい木漏れ日を見上げながら、すぐにこう続けました。
「残念だけど、これはまた来年この山を登るときの、お楽しみにとっておけばいい! それに、ここにある何でもない緑の葉っぱさえも、今の季節は光が透けてきらきらしていて、見ているだけで元気をもらえます」
花という分かりやすい結果だけを求めるのではなく、出合えなかったプロセスさえも未来の楽しみに変えてしまう。そんな吉岡さんの前向きな言葉に、齋藤さんも優しく微笑みます。
「カッコソウは本当に貴重な花でね。ただ見守るだけでなく、この美しい自生地を未来へ繋ぐために、現在はさまざまな研究や保護活動が行われているんですよ」と齋藤さん。地元の山を愛する齋藤さんから語られる、自然と人間が共生していくための物語に耳を傾けていると、目の前の一面の緑が、より一層愛おしく、守るべき大切な宝物のように思えてくるから不思議です。
