「音楽に乗るのではなく、音楽に住んでいる」(『NY Times』)
もうひとつ。彼女がZ世代の心を掴んだのは、ポップカルチャーに対する感度の良さ。『Rolling Stones』誌によれば、エキシビジョンで選んだピンクパンサレスの『Stateside』ザラ・ラーソン・リミックスは彼女の影響でSpotifyで1位に。人生で最高のアルバムはADÉLAの「DeathByDevotion」、好きなアーティストはNew Jeansや日系アーティストのMitskiだという。SNSではアリサを「音楽の趣味も金メダル級!」と賞賛した若者の声も。プログラムに選ぶ曲はどの歌詞もビートも知り尽くし、「私の身体がそれを感じるの」と話す彼女は、音楽に合わせて滑るのではなく、音楽と戯れる喜びを味わっているように見える。
好きなアニメは『呪術廻戦』に『チェンソーマン』。リサ・マッキノンがデザインしたネイビーの衣装は、大好きな日本のアニメ「魔法少女まぎか マドカ」のヒロイン金名まどかにインスパイアされたもの。カルチャー誌『Fader』ではそんなアリサを、「抑圧されたZ世代に光をもたらすアーティスト」のひとりに選んでいる。
複雑な生い立ちと政治的イデオロギー
あるネットユーザーはこう発言する。「この国は小さな喜びを必要としていた。アリサはそれを与えてくれたのだ。移民の娘であり、反体制派の難民である彼女が」。中国で抗議活動をしアメリカに逃れてきた弁護士の父親を持つ移民2世であるアリサは、ICE(移民・税関取締局)の移民対策で分断が広まるアメリカに最高のタイミングで現れた、若い世代にとっての希望。そんな父親を持つため、家族全員が基本的人権に対し声を上げて闘うというイデオロギーの持ち主でもある。「私たちはデモに行き、制作立案者に連絡し、手紙を書きます」。ICEにももちろん異議を唱える。
そんな彼女の父親アーサー・リウは、シングルファザーになるためにそれぞれ別の匿名の女性から卵子提供を受けて人工授精で5人の子どもを設けた。その長女がアリサ。そんな複雑な生い立ちだからこそ、家族と過ごす時間を大事にしているという。俳優のジェイミー・リー・カーティスは、アリサを「現代の若者にとって最高のロールモデル」と紹介した。
どん底を経験したからトップになれた
「自分の過去で変えたいことなどひとつもない」と彼女は言う。「どん底を経験したから、上に上がれた。だから若いときの自分にアドバイスすることは何もない。何度も底にぶつかってすべてを味わったから、今の成功があるんです」。どんなものも自分のアイデンティティとして包み込み、受け入れる器の大きさ。そしてたしかに、その経験はどれも彼女のキャラクターや演技に、より深みを与えているようだ。彼女が毎年冬に染めるという、アイコニックなその「年輪ヘア」のように。
「私は語り手になりたい。私のストーリーは、すごくクールだと思うから、それがたくさんの人々にインスピレーションを与えることを願っています」。
挫折からのレジリエンス、結果よりもプロセスを楽しむこと、そして自分を表現する勇気。アリサ・リウ選手のオーセンティックな生き方には、嘘がない。何でもフェイクで作れる時代に、だから彼女はZ世代のロールモデルとなったのだ。
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