一度は失った自由を再び手に入れた喜び

 そんなアリサは、一度は厳しい練習に心折れてフィギュアから引退している。天才少女と謳われ13歳で史上最年少で全米選手権に優勝、そして16歳で世界選手権で銅メダル。しかし誕生日を祝う時間もなく朝7時から夜7時までひたすら練習し、「休んだらジャンプ出来なくなるかもしれない」という恐怖心からのみ滑っていたその頃には、一切滑る楽しさを感じられなかったと『Teen VOGUE』で振り返っている。「あの頃のプログラムは見られるのが恥ずかしかった。快適ではないヘアスタイルや衣装に曲。自分で選んでいないから、まるで自分ではないみたいだった」

 だから復帰の条件は、プログラムでは自分が好きな衣装と音楽とヘアメイクを選び、自分が適切だと感じる練習量を調整し、競技のために食べ物を我慢したりせず、好きなものを食べること。――今、彼女は1日に3リットル以上水を飲むというほど水が好きだというけれど、それもきっと、かつては水の量まで制限されていた反動なのだと思うと胸が痛む。氷上でのあの弾けるような笑顔は、一度は自分らしさを見失い、それを自らの手で取り戻してコントロールできるようになった、心からの開放感によるものなのだ。

 あるユーザーはこう書き込んだ。「自分を愛するって、こういうことだよね」。アリサは人々に、競技を通してセルフラブの大切さを伝えてくれる。「彼女は挑戦さえしていなくて、ただ楽しんでいる。フィギュアスケートは初めて見たけれど、私は泣くのと同時に元気をもらえた」、「これを1000回でも見ていられる。何度見ても、彼女の演技は私に同じ喜びと希望をもたらしてくれる」。どの意見にも全く同感。彼女の動画には中毒性があり、その喜びは伝染する。

 アリサが欲しかったのは金メダルではなく「プログラムを観た人たちの感情を動かすこと。今まで感じたことのない感情を味わって欲しい。ショートフィルムを観たあとのようにね」というけれど、この目論見はどの観点から見ても、見事に成功している。

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