お客様は「指揮者」、私は「録音技師」
フレグランスをつくるためのセッションは、ひとり90分ほどでマンツーマンで行いますが、その間はゲストには何も尋ねません。まず、机の上に150本以上の天然香料が入っている小瓶と、それぞれの香りを閉じ込めたプラスチックのスライドメーラーを並べます。並べるというより、とにかく所狭しと積み重なっている感じ(笑)。初めてご覧になるかたは「こんなにあるの?」と驚かれます。
そこでお客様には、150種以上の香りを、揮発しやすい「トップノート」に相当する柑橘や草から始めて、最後は重みのある「ベースノート」に相当するレジン(樹脂)系という順番で次々と嗅いでいってもらい、「好き」「嫌い」「どちらでもない」といった、ただ瞬間的に感じるまま仕分けてもらいます。ひたすらこれを繰り返すのです。
仕分けた香りをお客様に最後もう一度嗅いでもらい、「ちょっと違うな」と思ったものは外していきます。外したものをさらに一軍と二軍にわけていただいて、私のほうで強弱つけて調合していきます。
この工程での私の役割は、よく「録音技師」みたいなものだとお話ししています。オーケストラでいえば、指揮者はあくまでもお客様。私はその音をしっかりと捉え、調整しながら残す側にすぎません。
どの香料をどのくらいの量で配合するかは、お客様の言葉や表情から読み取ります。これを嗅いだときに、「声のトーンが上がる」か「表情がぱっと明るくなる」か。そういう微細な変化を、カウンセリングやコンサルティングの経験で培った感覚で観察し、読み解いていくんです。だから、私自身にいつも完成のイメージはなく、選ばれた香料の個性と、お客様が発する微かなシグナルを手がかりにすることで、その人だけの香りが立ち上がっていくんです。
