「本来の自分に戻れる」。そう表現する人が後を絶たない香りがあります。さらには、「よく眠れる」「部屋を掃除したくなる」といった声まで。

 審美眼を持つ名士や国内外のセレブリティにもファンが多い、噂のフレグランスの正体は、オーダーメイドで香りをつくる「BESPOKE FRAGRANCE」。特徴は、約90分ほど行われる“診断”です。ハーブや花、フルーツ、樹木など150種以上もの天然のオイルをゲストがかぎ分け、唯一無二のフレグランスを完成させます。ブレンドするオイルはときに70種以上に及ぶことも。一体それはほかのフレグランスと何が違うのか? そして、このようなビスポークスタイルが生まれた背景は? 調香師のYINDIGO(インディゴ)氏に聞きました。


香りはイメージでは作れない……始まりは、もどかしさでした

 もともと私は企業のブランディングを手伝う仕事に携わり、それを体現するプロダクトづくりに関わってきました。25年ほどその仕事に専念したあと、自分でも自身のブランドを持つことに興味が湧いて、今運営しているブランド「YINDIGO AM」の前身となる「セカンドスキン」を立ち上げたんです。仕事やプライベートでよく海外に行くので、旅先でも心地よく過ごせる、肌身離さず纏える“第二の肌”のようなアイテムを作れたらなと。

 それで「服だけでなく、香りも纏うものだから“第二の肌”」と思って、素肌で着られるカシミヤのスウェットや洗濯機でガンガン洗えるシルクのアンダーウェアとともに、天然香料100%のフレグランスやスキンケア製品を作っていました。

 当初はゲストの好みをただ聞きながら香りを作る仕事を続けていたのですが、その際に、「もっとこの人を知っていたら違う答え、つまりもっと違う香りを引き出せていたかもしれない」……そんなもどかしさがいつもありました。

 そもそも香りは幼いころの記憶やその人自身の思い出と深く結びついていて、好みが非常に左右されます。五感の中で嗅覚だけが脳の「記憶・感情」を司る領域にダイレクトに伝わるともいわれているんです。そんなすごくパーソナルなものだから「その人が求める香りを、他の誰かが想像しながら作ることは無理なんじゃないか」と思うようになってしまって……。そうであるなら、どうすれば人が求める本当の香りを形にできるだろう? と考えたときにお客様との「共同作業」でつくろうと思い至った。それが、BESPOKE FRAGRANCEの原点になりました。

香りを「好き」「嫌い」で仕分けしてもらう

 「BESPOKE」というのは、Be Spoke=会話する、が語源で、お客様と対話をして希望を聞きながらそれを形にするフルオーダーのことです。ただ、私の場合は、香りをゲストのイメージに合わせて作ることに限界を感じていたので、なるべく自分の意志を介在させたくなかった。ゲストが心から好む香りをつくりたかった。そこで、あれこれヒヤリングする方法ではなく、お客様にその香りが好きか、嫌いか、どちらでもないかを選んでもらって作ることに決めました。

 嗅覚って、他の感覚と少し違うところがあるんです。先ほどお話ししたように、視覚や聴覚の情報は視床を経由して脳に届きますが、嗅覚だけは直接、大脳辺縁系に届く。つまり、「これが好き」「これは嫌い」という直感が、論理的に判断する思考よりも先に体内で起こる。普段は社会的な役割や他者の目を意識して押し込めている「本当の自分の好み」が、香りの前では素直に顔を出すんです。

 以前、ある和食の大将がいらしてフレグランスを作ったのですが、ご自身のことを周りとは違う強いこだわりを持つ、相当ロックなタイプだと思われていたようなんです。でも出来上がった香りは「これ、嫌いな人いないよね」っていうくらい誰からも愛されるようなもので。意識上の自己イメージと、本能が選ぶものとのズレ。そこに、香りの正直さがあるんだと思います。

 だから、お客様が香りを選ぶ際には、頭で考えないようにしてもらって、私はお客様の「本音」や「素顔」を形にした香りを作るように心がけています。

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