もともとは中学校の研修施設。歴史と制約を価値に変えて宿に

 そのひまわり栽培の活動拠点として、本当に偶然の縁で譲り受けたのが、現在の「しらかば荘」の建物です。もともとは埼玉県の中学校が林間学校で使っていた施設で、少子化で使われなくなり、町に返納したいという話が持ち上がっていました。

 僕らはそれを引き受け、当初は農機具を置いたり、仲間が寝泊まりしたり、風呂場を温室代わりにして苗を育てたりと、まさしく作業小屋のように使っていました。6年ほどそんな状態が続いたある日、みなかみ町が国の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」補助金に採択され、僕らにも声がかかったんです。化粧品や音楽、食、デザインと、これまで僕がバラバラにやってきたことの集大成として、いつか宿泊業をやりたいという漠然とした夢があった。まだ早いかな、とも思いましたが、このチャンスを逃す手はないと、しらかば荘の再生に踏み切りました。

 設計は、建築家の安齋好太郎さんにお願いしました。彼の家業は材木屋で、森の生態系から建築を考える、非常にユニークな視点を持つ人です。彼とは、デザインの好みというより、サイエンスやテクノロジーといったロジカルな部分で深く共鳴しました。だから、具体的なデザインの話はほとんどしていません。僕が口を出すと100言ってしまうタイプなので、信頼して任せようと決めていました。

 僕らが突き詰めたのは、「ここでどんな価値を提供できるか」ということ。しらかば荘が立つのは、人の暮らす里と、動物たちが生きる野生の森との、まさに境界線です。だからこそ、便利と不便を行き来する里山の暮らしそのものを体験できる場所にしようと。建物自体も、歴史ある古民家ではなく、高度経済成長期に建てられた、いわば中途半端な重量鉄骨の建物です。

 でも、研修施設として使われてきた「人が集い、学ぶ」という歴史は、お金では買えない価値。その歴史や建物の「制約」をあえて受け入れることでしか生まれないクリエイションがある。冷蔵庫にあるもので絶品の料理を作るような感覚です。施工も、しらかば荘の真向かいにある地元の工務店・笛木建設さんにお願いしました。会長が長年コレクションしていた古材や石をふんだんに使わせてもらい、この場所は、地域との深いつながりの中で再生されたんです。

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