化粧品ブランド「OSAJI」のディレクター・茂田正和氏が、群馬県みなかみ町に宿「しらかば荘」を開業しました。過疎化に悩む地域で、あえて「不便」な体験を提供する宿を始めた理由、そしてその根底にある、現代人が失った「本能」を取り戻してほしいという切実な願いについて、茂田氏に伺いました。
化粧品原料と耕作放棄地…二つの課題が生んだひまわり畑
僕がこの「しらかば荘」という宿泊施設を始めるに至った経緯は、8年ほど前に遡ります。友人に「一度来てみないか」と誘われて訪れたのが、群馬県・みなかみ町でした。みなかみ町は、2005年に旧水上町、月夜野、新治村という3つの町村が合併してできた町です。温泉で有名なエリアは観光客で賑わう一方で、特に僕が関わることになった新治村という地域は過疎化が深刻な問題でした。小学校は統廃合され、民間企業も施設をみなかみ町に返納したいと言ってくる。みなかみ町もすべてを引き受けるわけにはいかず、頭を抱えている状態でした。
しかし、みなかみ町はユネスコエコパークに認定されるほど生物多様性が豊かな場所でもあります。イヌワシやカモシカが生息し、手つかずの自然が残っている。こんなに魅力的な場所なのに、経済が循環していない。その現状を目の当たりにしたのが、すべての始まりです。
一方で、僕は日本の化粧品業界に対して大きな問題意識を持っていました。原料の8割を輸入に頼っていて、自給率は2割にも満たない。今後、アジア諸国で化粧品を使う人が増えたら、日本に原料が回ってこなくなるかもしれない。この危機感と、みなかみ町に限った話ではないですが、地方が抱える耕作放棄地という課題。この二つを結びつけられないかと考えたんです。農業の出口を、賞味期限が短く販路開拓も難しい食品ではなく、付加価値が高く長期保存も可能な化粧品にする。そう思い立ち、みなかみ町の耕作放棄地を借りて、化粧品原料となる植物を育てる活動を始めました。
最初はラベンダーなどのハーブを手がけましたが、採れる精油はごくわずか。もっと化粧品全体にインパクトを与えられる原料を、と考え、栽培しやすく油分も豊富なひまわりにたどり着きました。
