
編集部注目の書き手による単発エッセイ連載「DIARIES」。今回寄稿いただいたのは、文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさん。「現実の中のタイムトラベル」がテーマのアンソロジー『超個人的時間旅行』でも注目を集める藤岡さんが疲れた時に訪れる「心の拠り所」とは? 「あるある!」と共感しきりのエッセイです。
整体を心の拠り所にしている。
心身が疲れてきたなと感じたらすぐに整体の予約を入れる。忙しい日が続くと、首・肩・背中が痛くなってきて、最終的に頭痛に変わる。そうなる前に大至急揉んでいただくのだ。
肩のいちばん盛り上がっているところ、首の付け根、左右の肩甲骨のあいだ。親指でゆっくり押してもらうと、滞っていたものがじわあっと流れていくのがわかる。家では自分で揉んでみたりもするけれど、どうしたって物足りない。他人の手で凝りをつきとめてもらうことで初めて、溜まっていた疲れを認められる。
本当は1時間以上揉まれたいけれど、予算的にいつも40分コースで我慢している。いつか120分コースを予約するのが夢だ。でも気持ち良すぎてかなりの確率で寝てしまうと思う。寝てしまって120分を一瞬に感じたらどうしよう。超高級な昼寝になってしまう。そして、整体のスタッフは明らかに寝てしまっている客に対してどのように施術するのだろうか。どうせ寝ているしと思って適当に揉まれそうな気もする。私ならそうする。寝たらだめだ、寝たら終わりだ。究極にリラックスしたいはずなのに、雪山で遭難したときの緊張感を持って挑まなければいけない。
「ああ、バキバキですね」「肩、だいぶ辛かったんじゃないですか?」「めちゃくちゃ張ってます」。そんなふうに言われると、心のコリもほぐれていく。そうなんです、頑張ってたんです、と泣きたくなる。でも同時に、みんなに言ってるのでは?とも思う。これも、私ならそうする。「肩フニャフニャですね(笑)」「凝ってないですね~」とは、思っても絶対に言わない。「お疲れですね」というねぎらいの言葉は、サービスの一部に違いない。
サービスといえば、会話がサービスだと思っていそうなスタッフもいる。施術中、絶えず話しかけてくれるのだ。先日は普段指名していない人から「自分、オードリーが椅子を壊す生放送をリアルタイムで見てたんですよ」と謎の自慢をされた。たぶん行かなそうな場所にある家系ラーメンの名店も教えてくれた。
楽しい。楽しいが、私もまた、サービス精神を使って相槌を打ってしまう。せっかく面白い話をしてくれているのだからリアクションしなければ。穴の空いたベッドに顔をはめた状態だし、マスクもしているので、かなりしゃべりにくい。この状態だと聞き取りづらいだろうと思って滑舌や声量にも気を遣って返事をする。だから正直めちゃくちゃ疲れる。次回はどうやって会話をフェードアウトしようか、ということばかり考えている。
文=藤岡みなみ
