今まで我慢をしていたつもりだったのか

 父にしてみれば、原稿用紙のマス目を埋めるだけで苦しいのに、それに加えて義理のパーティ、会食、葬式結婚式、出版記念パーティのたぐい、気の進まぬ集いにどれほど我慢して、貴重な時間を費やしてきたことか。もはや70を超えたなら、今後はすべて「断然欠席」を貫いても文句は言われないだろうという決意表明らしい。

 が、聞いている側としては、父の真剣味が増せば増すほど正面を向いていられなくなり、とうとう私は俯いて唇を噛みしめた。隣の弟も俯いている。家族は皆、同じ気持ちだったはずだ。もしかして父は今まで我慢をしていたつもりだったのか。そうとわかった途端、吹き出しそうになったからである。

「お優しかった印象しかありません」「どこがだ!?」亡くなって初めて見えた父・阿川弘之の“もう一つの顔”【阿川佐和子さんの思い出】〉へ続く

目覚めると、ひとりだと気づく 家族が過ごした最期の日々

2026年4月17日
定価 1,100円(税込)
文藝春秋
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