この記事の連載

 物騒な事件が絶えない令和ニッポン――。42年間にわたり、凶悪犯罪の第一線で捜査を担当した通称「リーゼント刑事」秋山博康氏は、「他人ごとではないで!」と、国民全員の防犯意識に“喝!”を入れている。

 「魂の殺人」といわれる性犯罪。どこからが性暴力? ストーカーやデートDV、「万が一」に備えた証拠の残し方まで。自身はもちろん、家族を守るためにも、最新の犯罪手口とその対処法を心得たいものだ。

 6月24日(火)発売、秋山博康氏の新刊『元刑事が国民全員に伝えたい シン・防犯対策図鑑』(KADOKAWA)から一部を抜粋してお届けする。


犯人逮捕の決定打となったあるモノ

 万が一、性犯罪に巻き込まれたら──

 こんな物騒なこと、できれば考えたくないが「自分だけは絶対に大丈夫」という「絶対」はこの世にはないんや。

 性犯罪は統計に表れない「暗数」が多い犯罪や。すでに述べたように、性犯罪は顔見知りで「イヤ」と言えない関係性のなかで起こることが多い。そのため被害者は加害者からの報復を恐れて、泣き寝入りしてしまうことも少なくない。また子どもは、自分が何をされたか正確に理解するまでに時間がかかることもある。

 しかし犯人を処罰し、心の傷を回復するためにも、ぜひ早めに警察に相談してほしい。なぜなら、犯人を逮捕できるのは警察だけだからや。

 残念ながら勇気を出して警察に相談をしたのに「証拠がないから門前払いをされた」という話も聞く。けどな、警察が現場にも行かんで「証拠がない」と言うのは、ワシに言わせたら完全にアウトや。現場に足を運んで、目ぇ見開いて被害者のために証拠を見つける。それが警察の仕事や。

 実際、こんな事件があった。朝イチで若い女性が署に駆け込んできて「車の中でレイプされた」と話してくれたんや。どうやら前の晩、飲み屋で知り合った男に無理やり車に連れ込まれ、性的暴行を受けたらしい。女性は車のナンバーや車種を覚えていたため、すぐに男の自宅を割り出し、ワシは現場に急いだ。すでに日は暮れかけていたが、犯人のアパートの駐車場に例の車があってな。そしてよう見たら、後部座席のドアから、白いもんがピラッとはみ出しておった。トイレットペーパーや。

 実は犯人、犯行後に「ほら、これで拭け」と女性にトイレットペーパーをロールごと渡して、女性はそれを後部座席に放り投げたまま車を出たらしい。女性が慌ててドアを閉めたもんやから、ロールの端っこがドアに挟まったままだったんや。このトイレットペーパーが決定打となり、犯人は「お縄」となった。

2025.06.21(土)
文=秋山博康
本文挿絵=むらまつしおり