私は一読者として、そして一後輩として、この受賞を大いに喜んだ。満を持してとはまさにこのことと、多くの人が語った。日頃から読書に慣れ親しんでいる人には、窪美澄という作家の実力は直木賞を獲る前からすでに十分に認知されていたように思う。窪さんは、初の著書である『ふがいない僕は空を見た』でいきなり山本周五郎賞を受賞し、同作で本屋大賞第二位にも選ばれるという、類を見ないスタートダッシュに成功した作家だ。その後も『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞を、『トリニティ』では織田作之助賞を受賞しており、さらには『やめるときも、すこやかなるときも』や『じっと手を見る』などの力作を精力的に発表してきた。デビューから十五年。ずっと読者を魅了し続けている書き手である。
そして、本作に辿り着いた。
登場人物たちは、ある時は目の前の絶望から目を背けるように、またある時は愛しかった過去を思い出すように、星空を見上げる。
星や空。それは、『ふがいない僕は空を見た』の頃から幾度となく描かれてきた、窪美澄作品における重要なモチーフである。初の著書のタイトルがそのまま伏線のように、または夜空に浮かぶ星座のように、今作『夜に星を放つ』まで繋がって今に至ることは、偶然よりも運命により近く感じるのは私だけだろうか。
季節によって視認できる星座が変わるこの世界では、冬が訪れるたび思い出す過去も、夏が来るたび浮かび上がる景色もある。本書を手に取ったあなたが、次にまたこの物語を読むとき、夜に放たれた星たちは、どのように映っているだろうか。


夜に星を放つ(文春文庫 く 39-2)
定価 770円(税込)
文藝春秋
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2025.03.28(金)
文=カツセマサヒコ(小説家)