
イラストレーターでラジオ番組のパーソナリティとしても活躍する注目の人、たなかみさきさんの『大なり小なり』は、美大の同級生である小田さんと大原さんの同居生活を描いた漫画だ。思いがけず一緒に暮らすことになった二人は身長も性格も得意な家事もまったく違うからこそ、互いに干渉せず気ままに暮らし、ときにはバカ話をし、ときには真剣に語り合いながら、絶妙な距離感で互いの人生を見守りあう――。
「家族」や「会社」に縛られない多様な生き方が広まりつつある今、「家族」でも「恋人」でもない小田さんと大原さんの暮らしぶりは、多くの人の希望となるはずだ。
自分の人生を肯定してくれる人の存在

――小田さんと大原さんの平熱の生活が描かれる『大なり小なり』は、家族や人との関係性の根っこを捉えたリアルな会話シーンも大きな魅力です。
今こうやってインタビューという形で話していても感じることなんですが、人と会話をすることって、それ自体が自己理解に繋がるものですよね。あれこれ話した先にバシッと答えが出ることは少ないけれど、答えを出すことだけが会話の良さではない。
同居人とも話すことで相手のことはもちろん、自分も理解するようなことを日々繰り返している実感があったので、『大なり小なり』でも本当に内容のないバカな会話だけどすごく楽しいとか、何も言わないで話を聞いてくれるみたいなことも含めて、一緒に暮らす二人ならではの絶妙な会話を描きたいと思ってがんばりました。

――小田さんが「元カレの夢見ちゃった……」と起きてきて、そこから自然に小田さんが元カレとの別れを振り返るエピソードは、同居物語ならではのものですね。「あのまま根気良く一緒に暮らすこともできたと思うんだけど それが安定や結婚生活なのだとしたら私はイヤだなって……こんな現状を変えたいし 愚かでも安心できなくても一人でも寂しくてももっと楽しく暮らしたい」という小田さんの言葉は、多様な生き方が広まった時代の女性の悩みを象徴していて、心に響きます。
あのエピソードは「もっとこうしておけばよかった」という私自身の後悔が元になっています。ちゃんと相手と向きあって話し合う努力もせず、勝手に相手に期待してガッカリして、変化が欲しくて関係を断ってしまった。
そんなことを話す小田さんに大原さんは「アンタのその見ないフリしないところえらいと思うよ!」とハグをする。誰もが後悔なく生きられるわけじゃない。こうしていたらこういう人生もあったのかも――と思うこともあるけど、それも含めて許容してくれる人がいると、自分の人生を肯定できるんです。
2025.03.22(土)
文=井口啓子
撮影=佐藤 亘