「鈴木ジェロニモ的なイメージ」という相方を連れて
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──ジェロニモさんはいま、かなり独自の道を歩んでいると思いますが、ご自分ではどんな認識ですか?
ジェロニモ 元々は、「お笑い芸人」というものであればなんとか適合できそうかな、と思って芸人になってみました。でもいざやってみたらお笑い芸人という枠組みですら、自分の輪郭とは少しズレていた。そこで短歌という枠組みに行ってみたら、そこでも少しズレている。じゃあ自分にぴったり合う、オーダーメイドの社会の位置はどこなんだろうと思っていたら、今のこの、お笑いとか短歌とかを行ったり来たりする形なのかな、と。お笑いに行けば「短歌ってどうなんですか?」と聞かれ、短歌の場でも「お笑いってどうなんですか?」という話を求められる。この、常に境界をまたいでいる感じが、自分にとってはしっくりきているのかなと思います。
──では、今はかなり自分にフィットした活動ができている感覚なんですね。ジェロニモさんにせよ、弁護士芸人として注目されているこたけ正義感さんにせよ、「ピン芸人」の方の活動形態がいま、広がっていると思いますが。
ジェロニモ まさに、こたけさんと話したことがあるんですよ。現代の日本における「お笑い」はコンビ以上を指しているよね、と。今はそもそも、二人以上のコミュニケーションによって生まれるものを「お笑い」としている。コンビなりトリオなりのうち誰かが、「この人のことを背が小さいと思っていいんだな」とか、「社会常識からはみ出した人と思っていいんだな」とか、観る人に目線を提示する。会話によって社会を見せて、どちらかの立場に寄り添うことで観客は笑いやすくなる。かつ、お互いがお互いの説明書であり続ける。ピン芸人にはそれがないんですよね。自分が常に自分の説明書を持って、どういう立ち位置でどんな人間かを表明し続けなきゃいけない。だから、ピン芸人の僕らは自分だけが持っているものとお笑いとの接続を図っているんだと思います。
こたけさんなら「法律」という相方を持つ。僕だったら短歌なのか説明なのかを常にやっている「鈴木ジェロニモ的な何か」のイメージを観る人に抱かせつつ、僕自身が「そのイメージよりはまだ理解の及ぶ実態」としてステージ上に立つことができれば、それはお笑いとして成立するんじゃないかな、と思います。
──自分のイメージという相方。面白いです。この先の理想や野望はありますか?
ジェロニモ 活動を応援してくれている友人から、「大学時代、タモリになりたいと言ってたよね」とこの前言われたんです。僕は記憶になかったんですが(笑)。でも、たしかにタモリさんのように、社会的な正しさというより、個性を尖らせた結果説得力を持った存在ってすごく理想的だなと今は思っています。
鈴木ジェロニモ(すずき・じぇろにも)
1994年生まれ、栃木県出身。R-1グランプリ2023の準決勝に進出するなど、人力舎所属のピン芸人として活動する一方、歌人として数多くの文芸誌に作品を発表している。第4回・第5回笹井宏之賞最終選考。
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2025.02.08(土)
文=釣木文恵
撮影=今井知佑