意図が見えないから怖い「フェイクニュース」という闇
――物語の根幹を担う「フェイクニュース」ですが、一体何のために誰が作っているのか作中で意図がぼかされている印象を受けました。
酒井 フェイクニュースの悪質さは正にその「意図が見えない部分」にあります。それゆえに都合良く真実を歪める証拠として利用されたり、逆に真実についても「これは反対陣営のフェイクに違いない」と反論の材料にされたりするのです。
大森 情報を統括する人がいない・見えないことも恐ろしいですね。ある種ウイルスのように拡散して変異していきます。かつ、ファクトチェックには膨大な時間と労力がかかる。それゆえに「真実」というものが全く有効打にならないのではないかとすら思います。それに触れ続けることで、現実と虚構の境目が見えなくなるということは起こり得ることですし、私がこれまで手がけてきたフェイクドキュメンタリー系の作品にも通じるテーマなのかもしれません。
――「意図が見えない不安さ」を映像で表現するのは難しかったのでは。
酒井 確かに色々頭を抱えました。フェイクニュースを作っているのが都心から離れた山の奥の事務所だったというのも、このニュアンスを出すために思いついた案です。あの事務所は主人公の神保にとっての非日常空間にしたいと思いました。神保はドン詰まりの現実を見ないよう刹那的に生きています。なので、彼の仕事場には一種のバカンス感があり、憧れの人と過ごせる夏休みのような空間にしたかったのです。
そんな夢心地の雰囲気があるからこそ、終盤に神保は「この空間さえ俺の夢や幻なのでは?」と頭を悩ませ、観客もそれにシンクロして「これは神保の脳内のおとぎ話なのか?」と考え出す。そうなったら、成功ですね。
――聞くほどにロケーション選びが肝心だったのだと感じます。
酒井 制作部の北村和希さんに「牧歌的な非日常的空間が良い」とイメージを伝え、見つけてもらったのがあの物件です。当初は「2階建てのログハウス的なところ」を考えていましたが、彼がイメージを広げるようなあのロケ地を提案してくれ、実際に見に行って即決しました。ロケ地のオーナーさんや町のフィルムコミッションの方々なども本当に良い方ばかりで、撮影の合間には皆でスイカ割りもしていました。
2024.10.31(木)
文=むくろ幽介
写真=鈴木七絵