●自身を大きく変えた演出家・赤堀雅秋の言葉

――本作での演技は高く評価され、「高崎映画祭」では最優秀新人男優賞を受賞されます。

 高崎映画祭に関しては、塚本監督の強い作家性と、「野火」という作品の力のおかげだと思っていますし、今でも「何で、自分がもらえたんだろう?」といった気持ちでした。

 ただ、アフターパーティーでオダギリジョーさんにお会いできることになり、それがきっかけになって、オダギリさんと同じ事務所に所属することが決まったんです。

――そんな森さんにとって、転機となった作品・出来事は?

 29歳のときに出してもらった「美しく青く」という、向井理さん主演の舞台です。そのときは自分だけオーディションで選ばれたのですが、作・演出の赤堀雅秋さんに、もの凄くシゴかれたんです。

 お芝居云々ではなく、すごく人間的な部分をハッキリ言ってくださいました。また、「野球でいう犠牲バントを覚えろ」という赤堀さんの言葉も記憶に残っていて、自分の存在を消して相手を引き立たせる芝居を意識するようになりました。その結果、相手の芝居を受ける役など、仕事の幅が増えたと思います。

――個人的には20年の『佐々木、イン、マイマイン』や21年の『ゾッキ』あたりから、日本映画における気になる俳優の一人になりました。

 赤堀さんからの言葉もあって、素人っぽさや華のなさみたいなところが求められていることに気付き始めたんです。それで『ゾッキ』では斎藤工監督にも呼ばれたりして、このような作品が続いたことは、とても幸運でした。

 自分の感覚では代表作のひとつだとも思っているんですが、コロナ禍真っ最中に公開されたこともあって、誰からも「良かったよ」って言われないんですよ(泣)。

2024.06.21(金)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘