國本 僕以外にも法律家がたくさん引っかかった「毒饅頭事件」の時ですね。

――寅子たちが所属する女子部法科が存続の危機に陥って、PRのために学園祭で披露したのが、実際にあった事件をもとに作られた演劇でした。

國本 医学生が医者になった途端に恋仲だった女給を捨て、捨てられた女給が腹いせに防虫剤入りの毒まんじゅうを送りつけ、医者とその祖父が亡くなるという演劇でした。

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  これは実際にあった「チフス饅頭事件」がベースなのですが、本来は「女給ではなく女性医師による犯行」で「防虫剤ではなくチフス菌」。それを学長が「法律を学ぶ女性たちが、弱い立場の女性を救おうとしているように見えた方がいい」という理由で改変する強烈な場面に仕立てていましたよね。

元の事件を知っていた法律家ほど驚きが大きかった

――現実をデフォルメしたのは『虎に翼』の脚本家ではなくて、登場人物である学長の企みだったというひねった構造に唸っていた法律家の方が多くいました。

國本 僕も最初、ドラマ用に面白くデフォルメしたんだと思っていました。でも視聴者がそう思うことすら脚本家の計算で、完全に手のひらの上で踊らされました。調べたりレクチャーを受けた実在の事件をそのまま使うのではなく、脚本家が完全に消化してドラマのテーマに合わせて応用したということですから、もうすごすぎますよね。

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――元の事件を知っていた法律家ほど驚いたのですね。

國本 あと取材の前に第1話から観なおして気になったことをメモしていたのですが、どのエピソードも全部、1話につながっていることに気がついてそれも感動しました。

――1話につながっている?

國本 第1話の冒頭で、寅子が日本国憲法が交付されたという新聞記事を読んで涙を流している場面がありますよね。そこからカメラが憲法14条にフォーカスして、ナレーションの尾野真千子が「すべて国民は法の下に平等であって…」と読み上げるじゃないですか。そして色々な苦境を抱えている女性たちが画面のあちこちに映ります。

2024.05.24(金)
文=田幸和歌子