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●気まずさも恋の醍醐味 3rdアルバム「讃集詩」

 誰しも心に溜めている小さな過ちや恨みごと。それをハーモニーの美しさで全部いい想い出に変えたろうとする力技が冴える1枚だ。奥歯がキュッとなる楽曲が多い。

 3曲目の「帰郷」は、気まずい。ひたすら気まずい。中条きよしの「うそ」ばりに、タバコの吸殻がいい仕事をしている。余談だが、タバコは会話が続かない時、間をもたせるのに便利だと聞き、私も吸ったことがある。結果下痢をし、体質に合わないと断念した。そんなだから、タバコと吸殻は憧れのアイテムなのである。

 話を戻そう。そして、哲学的な香りがありながら、声に出して読むと「夏ざかりほの字組」と似ているという奇跡的なタイトル、4曲目の「逆戻り浮気考」。ドゥンドゥンという胸の鼓動のように響くパーカッションが明るく気まずい。

 さらに9曲目、「無言劇」という気まずさの極みのような楽曲が響く。三角関係鉢合わせの、402号室の玄関の前の風景がつらすぎる。トゥルルルンというスキャットはきっと、こぼれ落ちる涙と鼻水の擬音(泣)。

 ところがこれらの気まずさが、聴いていると本当に心地よいのだ。ああ、人間の感情って不思議!

●バラエティパックな「ALMIGHTY ALFEE」

 1曲目の「SAVED BY THE LOVE SONG」は、最初こそアルバム「TIME AND TIDE」「讃集詩」の流れを汲む、切ない曲だなと思って聴いていたら、おりゃおりゃドンドンと壮大になってビックリ! ほかにも演歌な「さすらい酒」、歌声喫茶で頭を揺らし歌いたくなるような「水曜の朝午前3時」、社交ダンス日本一のカップルをゲストに迎えて聴きたくなる「踊り子のように」――。

 バラエティの豊富さが逞しさを感じさせる。感動の涙を拭くのもレースのハンカチ以外許されなさそうなほど繊細だった前の2アルバムから、「ピュアからの卒業」といったストーリーを想像させ、聴いていて清々しい。

 とはいえ、やはり特筆したいのは失恋ソング。私はけちょんけちょんに悲しいお別れソングが好きだと改めて確信する。「挽歌」は最高だ。いやもうアルフィーの歌う「裏切られ三角関係ソング」はいい!

2024.05.18(土)
文=田中 稲