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染太郎お好焼教室① やきそば

染太郎お好焼教室① やきそば

材料:さくらえび、もやし(1番上に乗せる)、ひきにく、あげだま、キャベツ、玉ネギなどやさい類、やきそば

・これらのものを、まわりをかこむようにのせる。
・ラードをひいて、ひっくりかえして、テッパンいっぱいにひろげて焼きはじめる。
・もやしが下になっているので、この水分が、おそばに吸収されるまでいじらない。
・あまり、かきまわさないで、じっくりやくのがコツ。
・ウースターなどをかけて、もやしがしゃっきり(かため)のうちに食べる。

 同書には、開高健が書き写した昭和40年頃の染太郎のメニューも載っていて、そこには《やきそば》と《五もくそば》の両方が存在している。上記「お好焼教室」の「やきそば」は現在の「五目焼そば」とほぼ同じ材料なので、おそらく五目そばの方だろう。

 具材の盛り付けの順序が多少異なるが、蒸し焼きにする点は今と同じだ。ただ、皿を上に被せるという肝心の手法は書かれていない。昭和58年と現在の染太郎では、同じ五目焼そば(五目そば)でも調理方法が違うことになる。

 これは私の想像だが、時代を経て染太郎の知名度が上がるにつれ、慣れない客が増えたせいではないだろうか。『染太郎の世界』の帯には《アンノン族も魅了したお好焼の元祖》という煽り文が書かれている。アンノン族とは当時の流行語のひとつで、女性誌『an・an』『non-no』などに掲載された飲食店・観光地を積極的に訪れる、20歳代前半の女性たちのことを指した。おそらくお好み焼きを初めて経験する女性も多かったろう。

 じっくり蒸さねばならないのに、勝手に焼きそばをいじる客が多くなり、それを防ぐために皿を被せてしまう方法が考案されたのではないか。私は、そう推測している。

 『染太郎の世界』の「やきそば」の作り方には、《ウースターなどをかけて》と書かれているので、昭和58年にソース味だったのは確実だ。しかし、昔から変わらぬ味とまでは断言できない。今の染太郎の焼きそばからアプローチするのは限界がありそうだ。

 ただ、幸いにも染太郎について書き残している文筆家は多い。それらの文章が、戦前の染太郎の味の手がかりになる。

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塩崎省吾(しおざき・しょうご)

1970年生まれ。静岡県出身。ブログ「焼きそば名店探訪録」管理人。国内外1000軒以上の焼きそばを食べ歩く。テレビ、ラジオなどメディア出演多数。本業はITエンジニア。
 

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2023.09.23(土)
著者=塩崎省吾