この記事の連載
- 『ソース焼きそばの謎』より#1
- 『ソース焼きそばの謎』より#2
女性3人にお好み焼きをレクチャーする高見順
高見順は、『アサヒグラフ』の昭和26年2月21日号の「自由ガッコ/ヤキくらべ/お好み焼教室」という企画で、女性3人を相手にお好み焼きの焼き方をレクチャーしている。店の名前は出ていないが、壁のメニューなどから染太郎とわかる。実に嬉しそうだ。
高見順の小説『如何なる星の下に』は、昭和14年に雑誌『文藝』で連載され、翌年に単行本にまとめられた作品だ。染太郎が「惚太郎」という店名に変えて登場し、当時のメニューが詳細に綴られている。その筆頭に《やきそば》の名前がある。
やきそば。いかてん。えびてん。あんこてん。もちてん。あんこ巻。もやし。あんづ巻。よせなべ。牛てん。キヤベツボール。シユウマイ。(以上いづれも、下に「五仙」と値段が入つてゐる。それからは値段が上る。)テキ、二十仙。おかやき、十五仙。三原やき、十五仙。やきめし、十仙。カツ、十五仙。オムレツ、十五仙。新橋やき、十五仙。五もくやき、十仙。玉子やき、時價。
戦前の染太郎の「やきそば」は、果たしてソース味だったのか。念のために検証しておこう。
現在の染太郎で同じものを食べられればよいのだが、無印の「やきそば」は染太郎のメニューから消えてしまっている。現在提供されているのは、「五目焼そば」「カルビ焼そば」「豚キムチ焼そば」の三種で、無印の焼きそばはない。しかも、このうちソース味なのは「五目焼そば」だけだ。
また、調理方法も近年変化したようだ。現在の染太郎では、焼きそばの材料を鉄板に広げたあと、具材が盛られていた皿を被せて、蒸し焼きにするのを特徴としている。
しかし、以前はそのような調理法ではなかった。前節で「しゅうまい」の説明を引用した昭和58年『染太郎の世界』には、「やきそば」の調理方法も書かれている。
2023.09.23(土)
著者=塩崎省吾