“今の時世”を映し出した新作アルバム

――今回ドイツ・グラモフォンからリリースされる『After the chaos』で伝えたいことは?

 「人間性に対する賛歌」をテーマにしています。時に、人間性は愚かさや、合理的ではないとか、感情の揺れとか、ネガティブな部分でも語られますが、そういうところが好きなんです。

 僕は昔も今も変わっていないことがポジティブに感じられて、人間全員がスマートになってしまう未来なんてあんまり見たくない。合理的に全員が動いてなんの齟齬もなく、綺麗に治まる世界ではなく、ぶつかり合いながら、譲り合いながら前に進んで行く世界が見たいですし、現状にはよくないこともありますが、それでもルーティンを続けていることに対して、僕が感じる美しさをテーマにしました。

――曲のコンセプトとして戦争や疫病に襲われた現代をイメージされたのでしょうか?

 構想のときから『After the chaos』というタイトルを考えていましたが、まさに今の時世だから作った曲です。自分の中でアルバムを通して曲の流れが同じになっていることを想像しました。例えば自分なりに最悪のケースみたいなことを考えて、冒頭からもう終わってしまったみたいなところから始まって、もっとしんどいことが起きるんだろうけれど、そこに光を見出せるものがある。

 バブル世代と、ゆとり、さとり世代は景況感は違ってもそれぞれを満たすものがあります。さらに、もしこの後どうしようもない世の中になっても、あとから生まれてくる世代の子達も、彼らなりの楽しさみたいなものを見つけて生きていくと思うんです。喧嘩や衝突があっても何か救いがあると僕は思うんですが、そういう流れを音楽的にまとめたつもりです。

――アイスランドのアーティストとコラボレーションしたことには

 僕は北欧が好きで、寒いところが好きなんです。コンセプトが自分の中で決まって、実際に作ることになったのが、6月、7月でした。暑い東京ではできそうになかったですし、涼しくて、友だちもいない孤独感のある環境というのも大きいと思ったので、アイスランドで制作することになりました。

 現地で人づてに紹介してもらったアーティストもいますし、行く前に音源を聴いて、会ってみたいなと思ってアポイントをとったアーティストもいます。アルバムの制作はケースバイケースですが、今回はわりとコンセプチュアルだったので、その音源を聴いたときに、この曲は多分こういうところにハマると思った人にお願いしました。

 なんとなく自分の裏の時系列があって、アルバムの中ではこのタイミングでということがあるので、「ここからここまでがあなたの範囲ですよ」と伝えた方がコラボレーションとしてもやりやすいかなと思って、そのレールは敷くようにしました。

――クラシック界の若手アーティストが参加されたのもYaffleさんの考えていたコンセプトに合っていたからですか?

 そうですね。僕にクラシックを教えてくれた高校の学友がクラシックのメディアの仕事をしていて、彼にイメージなどを伝えて、人選も含めて手伝ってもらったり、繋げてもらったりしました。その人が入るピースを自分で空けておいてハマったという感じです。

2023.02.21(火)
文=山下シオン
撮影=平松市聖